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第四章 再会
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朝、食事を終えた頃、フェイスとローズさんが屋敷にやってきた。
「枇々木君、喜びたまえ。本は皇国内と帝国向けに明日には配布され始めるぞ!」
フェイスはリビングに入るなり大きな声で僕に知らせてくれた。
「本当? それは嬉しい」
「ああ、苦労したかいがあったな」
「そうだね」
これで、やっとリリィさんの手元に届く。
もちろん、直ぐに手元には渡らないだろうけど。
「しかしフェイス、その次の日には世界中にも配り始めるんだろ?」
「そうだが」
「買ってもらうんじゃなくて」
「買ってもらうとなると敷居が高くなるからな。何か気になることでも?」
「いや、資金が良くあるなと」
「まあ戦争することに比べれば大したことはないよ。これで世界中に帝国のしている事が知れ渡る。それに、小説という物が皇国にとっても1つの商品のようになる。出版する力については、他国より一歩も二歩も進んでいるつもりだからね。さらにそれが加速される感じかな?」
「良く、それぞれの国に話を取り付けたね」
「まあ皇国は歴史が長い国だから、それなりに権威があるからな。そのお蔭かな。それが無ければ難しかったろう」
「そうか。自費出版みたいになってしまうのか?」
「ん? それは最初だけだよ。見本みたいなものさ。さらに増刷する必要がある時は買ってもらうさ」
「なるほど」
「4部構成が、そこで効いてくるわけだ」
フェイスは得意げに説明してくれた。
「でも、1冊目が受け入れられなかったら?」
僕は自信が無かった。
この世界で恋愛小説が受け入れられるのだろうか?
そもそも僕はちゃんと書けているか?
いや、肝心のリリィさんの心に届くのだろうか?
「受け入れようが受け入れられまいが関係ないよ。『巷に、こんな噂が広まっているが事実なのか?』と帝国を問い詰める材料になりさえすれば」
「ええ? それは酷いなぁ」
最初からその可能性も含めて書き始めていたから良いんだけど、とりあえず僕は言ってみた。
「フフ。世界のみんなは君達の味方になると思うよ」
「どうして?」
「何とぼけているの? ローズのあの反応見たら、少なくともゼロじゃないよね?」
「そうだね。他の感動も交じってたみたいだけど」
「ハハハ」
そこへ、キッチンからお茶を持ってローズさんがリビングに入って来た。
「何を話しているの? フェイス! 枇々木!」
「ローズさんが太鼓判押してくれたから、増刷は間違いなしってフェイスと話してたところだよ」
「何ですそれ? 私のせいにするか?」
ローズさんも笑って答えた。
ローズさんとしても、フェイスに付いて行くのには勇気が必要だったろう。
下手をすれば、一緒に帝国から命を狙われ、暗殺の対象にされかねない。
それこそリリィさんと同じ暗殺者達が、山の様に押し寄せてくる。
皇国の要人だけに。
フェイスが貴族達から反対されて孤立でもしたら、かなりやりづらくなっていただろう。
しかし、貴族の中でも名門のローズさんが次期皇太子妃として控えていることが、他の王族貴族へのけん制になっているらしい。
それを微塵も感じさせないローズさんは、結構肝っ玉が据わっている御令嬢だ。
本は次々と在庫が無くなり、買うから売ってくれとの声がかかるようになっていた。
作者としては嬉しい限りだ。
だが、これは帝国との戦いを意味することになる。
リリィさんがいるらしい地域には、重点的に広げてもらっている。
きっと手にして読んでいる事だろう。
少し恥ずかしいけど、どんな顔して読んでくれているんだろう。
ガッカリさせていないだろうか?
この程度の男に振り回されていたのかと幻滅されていないだろうか?
彼女の心の壁を突破できているのだろうか?
書き直しなんて出来ない。
後から直したのを出し直すのは出来るけど、それが届く可能性は少ない。
一発勝負のラブレターだ。
普通のラブレターなら直接的に愛を訴えることで伝えることが出来るだろう。
しかし、何度も繰り返すが、それでは駄目なんだ。
世間を味方につけないと、闇の中から引っ張り出せないんだ。
大して受けない小説しか書けなかった僕だ。
だけど、その小説の書き方を勉強してきたお蔭で、一目惚れして大好きになった子へ愛を訴える恋愛小説を書けた。
世界を巻き込む陰謀渦巻く困難を乗り越え、成就させる大恋愛小説を書けた。
やって来て、損はなかったと僕は思いたい。
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