1話完結・読切

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1話完結・読切

「いまさら何を言ってるの? あたしが、どれだけ待ちぼうけを食ったか、分かってる?」 「いやぁ、思った以上に渋滞(じゅうたい)しててさ。意外と都会なんだね、ここ」 「なにそれ。言い訳もマトモにできないの?」 「言い訳じゃない。本当に、必死に飛ばしてきたんだ」 「どっちにしても、もう遅いわ。何もかも。どうだっていい」  すでに心は冷え切って、芯まで凍りつきかけている。 「涙すら干上(ひあ)がってしまった。さっさと消えてどうぞ」 「どうして、そんなツレないんだ、ダーリン?」  土気色(つちけいろ)にヤツれた彼女の肌を見て、だが彼の情熱は、いや増す。 「僕が悪かった。もっと別のルートで来るべきだった。こんな回り道だとは知らなくて」 「言い訳はヤメてってば! ムリなのよ、もう……あたし、若くないし」 「そんなことない! 君以外に僕の伴侶(はんりょ)は考えられないよ」 「いいえ。アナタが憧れていたのは、瑞々(みずみず)しく美しかった頃のあたしでしょ? 今はもう、ご覧の通り。見る影もないわ」 「だからこそ君を救いたいんだ! 僕は……」 「救う価値さえないのよ。(けが)されてしまったんだもの、あたし。それはもう、数え切れないほど大勢のヤツらにね。体じゅうをすみずみまで乱暴に(なぶ)られてしまった。あなたを待つ間、ずっと、ずっと。このカラダを(むさぼ)られ続けてきたのよ!」 「ああ、なんてヒドい。可哀想に。僕と一緒になって生まれ変わろう。たくさん子供もつくろう!」 「ムリよ。あたしなんて、アナタにふさわしくない。それに、どんなにヒドいヤツらでも、あたしは愛してる……」 「ウソをつけ! 君こそ、くだらない言い訳で僕を拒否するな」 「だって……っ」 「いいから、もう。黙ってろよ……」  彼は、彼女を抱きしめた。  こうして、は、突如として急接近した地球近傍小惑星(ちきゅうきんぼうしょうわくせい)と衝突して結ばれ、溶け合い、生まれ変わった。  爆発の衝撃で弾け飛んだカケラから誕生した、たくさんの小惑星(子供)たちに囲まれながら。
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