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山の便り
獣医である狛山敬子から電話があったのは、その晩の事であった。
電話を受け取った眞弓の父・明弘が眞弓を呼び寄せると、汰朗もすかさず彼女についていった。電話台の下に座りこんで、耳を聳てる。
「はい、眞弓です」
『突然の電話で驚かせたかい』
笑みを含んだその声に、「いえ」と眞弓は頬を綻ばせて答えた。敬子は、狛山の中でも眞弓が心を許している人物の一人だ。
『今日、山林の際を探っていたら、いくつか町の人のものと思われるタオル類を見つけてね。熊の手掛かりと合わせて宗家に報告したら、眞弓ちゃんの担当だと言われたものだからさ』
「洗濯物泥棒を追っているんです。雄猫ということはわかっていて、新興住宅街を縄張りにしている野良猫の一匹だと思うのですが」
『雄猫、なるほどね。確かに雄猫の匂いがしたそうだよ。タオルは全部で三つ。雨風がしのげるような、木の根の蔭や穴倉で見つかったんだ。巣でも作るように敷かれていたよ』
「巣、ですか」
『ああ。それともう一つ、猫は二匹いたようだよ。タオルには、特に雌猫の匂いが強くついていた』
「もう一匹の雌猫」
眞弓が視線を下げると、汰朗は顔を上げて応えた。
「もう一度、話を聞く必要があるものが居そうだな」
『二人は何か手がかりがあるようだね。実は、その雌猫は我々も追っているんだよ。なにか分かったら、何よりもまず私に教えてほしい』
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