第4章 異世界転生した女性

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清盛「儂は顔の事を言われるのが1番嫌いでな。我が家にいたいのならば顔の事は絶対に触れてはならぬ…」 宗盛や時子に対しては言いたい事を言い続ける清盛でしたが紬に関しては… いかつい顔…あ、失礼しました。 年季が違う顔の眉間にしわを寄せながらも優しい表情を浮かべようと努力をしておりました。 すると… 時子が小首を傾げながら紬に対して ある質問をしました。 それは… 時子「失礼ではありますがお嬢さんは一体どなたかしら?やけに息子達と近しいようですが…?」 時子からの質問に紬はきちんと答える事にしましたが全てにおいて真実を口にする訳にはいきません。 なので… 紬「私は中村紬と申す者で遥か遠くにある田舎の里から来ました。」 清盛「遥か遠くにある田舎の里とは一体どこの事だろうか?」 紬の言葉に突っ込みを入れる清盛に対して時子は人差し指を唇に当てました 時子「総帥、そんなに容赦ない 質問をしてはいけません。」 時子から窘められた清盛は、 それから静かになりました。 紬「両親から捨てられ身寄りがない私を不憫に思った里長が今まで育ててくれました。」 思いつきで作った作り話のようなものではありますがあまりに不憫な話に… 知盛「可哀想な紬…」 今度は知盛までも口を挟み 泣き出しそうになっていました。 紬「あまり里長に迷惑を掛ける訳にもいかず…独りで此方に来ました。どうしても平安京をこの目に焼き付けたかったので…。」 そこまで話が進むと今度は、 またもや困った男が口を挟みました。 宗盛「しかし…検非違使をしている頼政の息子である頼兼に捕まりそうになった絶体絶命のところを私が颯爽とこの輝かしい威厳で助けました…。」 教科書で見た事あるあの顔が目の前にあり緊張状態だった紬でしたが話を皆が遮るため息を切らす事なく話せましたが… 清盛「なるほど…。紬殿の事情は分かったのだがもしや宗盛、また威厳だのなんだの偉そうな態度を頼兼にしたのではあるまいな?」 宗盛はまた口を滑らせてしまい… 清盛から厳しい口調で問われました。 宗盛「…えっと…」 宗盛は思い当たる節があり過ぎるので 言葉を詰まらせてしまいました。 と、言うわけで宗盛はまたもや 清盛の怒髪天を衝いてしまいました。 清盛「…宗盛!お前はどうしてそんなに物覚えが悪いのだ!頼政父子は味方だと何度言えば分かるんだ?いい加減にしないか!」 それからしばらく経って清盛の怒りもそれなりに落ち着いた頃、 清盛は紬の顔と着ているものをマジマジと眺めると不思議そうに小首を傾げながら…紬に尋ねました…。 清盛「しかし…なんだ? そのよく分からない風貌は?」 紬が着ている制服と 持っている通学鞄、 そしてローファーとハイソックス…。 時子「確かに不思議な装いですね…」 たくさんの子どもを育てる時子も 清盛の隣で全く見た事ない風貌に 小首を傾げていました。 優月「すみません、 着物を買うお金もなく古着です…。」 着物ではなく十二単ですが… それに関しては誰も突っ込まず… 知盛は紬が着ている制服の袖を軽くつまみ生地の薄さを確認すると… 知盛「古着を着るしか出来ないなんて 本当に可哀想な紬…」 『異世界転生を果たしたなんて言ったら多分怪しまれて牢なんかに閉じ込められるんだろうな。せっかく平家の総本家と仲良くなれたんだ。巧くやろう…。』 紬は心の中で呟くと同時に この時代で生き抜く事を自らの心に 強く誓いました。 すると…時子は… 時子「仕事をするなら宮中かしら?この時代の女性達は必ずや行儀見習いとして宮中に仕えるの。」 知盛から聞いた説明に 良く似た事を口にしましたので… 知盛「母上、その話ならば もう僕の方からしています。」 時子は出来の良い息子に満足げな笑みを浮かべてから固く閉ざされた 襖の向こうに向かい手を3回ほど 叩きました。 すると… 知盛や紬と良く似た年齢の女性が 向こう側より現れました。 鳴海「義母上様、 お呼びでございますか?」 時子「鳴海ちゃん、 悪いのだけどこの娘の面倒を見てくれる?」 時子から〈鳴海〉と呼ばれたこの女性はまるで品定めをするかのように 紬を上から下まで眺めてから… 首を横に振りました。 鳴海「嫌です、 知盛様と仲が良い女性の面倒を どうして私が見なくてはならないのですか?」 知盛「鳴海、落ち着け。 この子は左京区で検非違使を勤める源頼兼から執拗に追われて困惑していたから助けただけだ。」 知盛は身寄りのない紬に嫉妬する鳴海に対して怒りを露にしました。 鳴海「どうしてお怒りになるのです? 知盛様は私の夫ではありませんか? 浮気だなんて絶対に許しません!」 鳴海もいきなり現れて夫と仲良くしている紬を許せずにいました。 ちなみに紬が暮らしていた現代〈=西暦2024年〉ならば許されませんが、 時は平安時代末期であるため側室を持つ事は違法ではなく合法です。 但し… 鳴海や北条政子のように嫉妬深く 夫を溺愛している女性からすると 許せないようでございました…。  宗盛「ちなみに鳴海は知盛の正室で 武藤家から嫁いできた女性だ。」 宗盛は弟の修羅場に遭遇したのに、 何やら嬉しそうな表情を浮かべながら 鳴海の事を紹介し始めました。 鳴海「宮中での役職名は治部卿局。 後白河法皇にお仕えしている知盛様の異母兄である平重盛殿とは同期に当たります…。宜しくしたくはありませんが一応紹介だけはしておきますわ…」 鳴海は紬を激しく睨んでおりましたが 紬はその理由が分からず怯えながらも小首を傾げておりました。  すると… 宗盛「夫が妻以外と仲が良ければ… それは嫉妬の対象になるだろう?」 何故だか恋愛経験とはほとんどご縁のないはずの宗盛が紬の疑問に答えたのでございます。 何故ならば宗盛には最近ではありますが親族である平清子(せいこ)という妻が出来たからでした。 平清子「そうですね、で、貴方は知盛さんの所で起きた問題について解説してる暇はないのでは?」 すると…今度はその清子が 宗盛に近づいて目の前にある文を 叩きつけたのでございます。 宗盛「痛いではないか?」 〈宗盛様、いつものように神々しい輝きを放つ宝飾品ですこと。見せて頂き感謝します。で、今度はいつお逢いできます?〉 清子は宗盛に叩きつけた文を 今度は手に取ると読み始めました。 清子「私以外には宝飾品を渡さないと 言っていたから宝飾品を集めても良いと言ったけど…約束破ったのね?」 宗盛「清子(せいこ)… 話せば分かる。」 初めて間近で修羅場を見た紬は、 どうしたら良いのか分からないまま 呟いたのですがそれに答えたのは… 天千代丸「修羅場…ですね。」 知盛ではなく宗盛でもなく、 どこから現れたのか分かりませんが 新たな登場人物となる子どもでした。 時子「天千夜丸、いきなり 現れたら彼女が驚くでしょう?」 天千夜丸「これは失礼しました。 兄上達が女性を伴いお帰りになるなど今までなかったので気になりまして…私の名前は天千代丸です。」 天千夜丸〈後の平 重衡〉年齢は10歳。 清盛の五男で生母は時子。 まだ元服前の幼子だが他人の恋路に 興味津々のためよく兄達から (たしな)められている 知盛「天千夜、他人の恋路にあまり首を突っ込んではならぬぞ。特にあの人の場合は…。」 知盛が切々と紬を助けた理由を 説明した事で紬に激しく嫉妬の炎を 燃やしていた鳴海は漸く納得したようでした…。 鳴海「彼女に身寄りがなく田舎から来たところを検非違使に追いかけ回されて困っていたから助けたのね。優しい知盛様らしいわ…」 知盛「そういうこと。」 気持ちが落ち着いた鳴海が笑みを浮かべながら話すようになりましたので、 知盛は安心して紬の隣に行けるようになり天千夜丸に説明出来る状態となりました。 天千夜丸「兄上、あの人とは?」 10歳の天千夜丸は何でも興味を示す 好奇心旺盛な性格をしているため、 気になった事は何でも聞くのです。 しかし… 知盛「天千夜、あの人とはいま僕達の前で義姉上の猛追から必死に逃げている人だよ。」 知盛が指差す先には鬼のような形相をして宗盛を追い掛け回す清子が… どうやら清子も基本的には 宗盛の事を好いているようで… 清子「こんの浮気もんが!許さん!」 こちらも嫉妬の炎がメラメラと、 渦巻いておりました。 宗盛「話せば分かるから…頼むから… 落ち着いてくれ!」 人の事〈=主に知盛の事〉なら、 どや顔で説明出来る宗盛ですが モテないため自分が嫉妬されるのは、 人生初なので狼狽えていました。 清子「問答無用!(やま)しい事があるから逃げるんでしょ?」 大体疾しい事がある人間と言うのは… 逃げ出したり慌てたり… ん?という事は… 宗盛「誰か助けてくれ!紬!」 宗盛にはどうやら疾しい事をした自覚があるようなのですが何を血迷ったのか助けを求めたのはまさかの… 紬「私、助けた方が良いんですか? 名前、呼ばれたんですけど…。」 逢ったばかりの紬でした…。 紬は素直な性格であるため、 悩んでしまいました…。 すると… そんな紬に対して清盛は、 いつもより穏やかな声色で… 清盛「放っておきなさい、あの子は 暇さえあれば浮気するから。」 宗盛の事を庇い立てする事もなく 爽やかな感じで言い切りました。 そんな清盛とは対照的に時子は、 時子「清子、落ち着きなさい。 今は一夫多妻だから浮気にはならないのよ…」 清子の事を必死で宥めておりました。 紬「どうして時子様は、 あんなに必死な御様子で清子様を宥めておられるのでしょうか?」 すると… 知盛が紬の疑問に答えたのですが、 紬からするとそれは衝撃的でした。   それは… 知盛「義姉上は母上の妹だから… 僕達の叔母に当たる人だね…」 紬「…」 現代〈=西暦2024年〉で16年生きた 紬からすると言葉を失う程の衝撃…。 時子「誰も嫁いでくる人間がいないから仕方なく清子を嫁がせたのだけれど…」 紬の驚愕している様子を確認した時子は慌てて火消しに走りました…。 紬「甥と叔母の結婚だなんて産まれて来る子が障害を持って産まれるかも知れませんよ、血筋が濃すぎですから…」 しかし… それは紬が改めて説明をしなくても… 平家一門、皆が承知の事実でした。 知盛「仕方あるまい、兄上を独り身のまま過ごさせる訳にはいかぬ…」 それと… 嫉妬で耳まで真っ赤にしている清子を見たら紬も清子がどれ程宗盛の事を 愛しているのか理解出来ました。 紬「なら、私は何も申しません。 総帥が仰せの通り静観しますね。」 清盛は素直な紬を見て 優しく微笑みながら頷いていました。   清盛「紬殿は とても可愛らしい性格をしているね。 うちのお馬鹿さんと違って…」 清盛にお馬鹿さん扱いされた宗盛は、 怒髪天を衝いた妻に追いかけ回され… 取りあえず逃げ回っておりました。 清子「待てこら!」 宗盛「誰か助けてくれ~!」 助けを求めてみたものの誰も気にする様子はなくそれどころか… 清盛「そう言えば紬殿、 そなたは身寄りがないのであろう?」 時子「平安京は雅で良いところだけど どこに悪い事をする人間がいるか分からないから守ってくれる人は必要よ…」 紬「田舎から出てきましたから…ね。 身寄りはないのですが結婚するなら浮気しない誠実な知盛さんのような方が理想です。」 清盛と時子は溺愛する息子と同い年である紬の身の振り方をとても心配していました。 すると…清盛…突然ではありますが、 ある人間の事を思い出しました。 それは… 清盛「ならば…鳴海。そなたの兄は 未だ独り身であったな?」 鳴海の兄であり武藤頼兼の嫡男である頼平は知盛と鳴海、紬よりも2歳年上の西暦1150年生まれで年齢の割には清盛よりも落ち着いているかもしれない精神力の持ち主です。 鳴海「兄でございますか? 確かに兄は独り身でございますが…。」 実のところ頼平、 1度流しの白拍子に恋をしていました 頼平「愛しているよ…」 時姫「しかし…私は…」   白拍子の名前は時姫と申しまして… 高貴な殿上人の隠し子でした…。 ちなみに… 時姫の父親が誰なのかは 結局頼平にも分からないまま…。 お互い想いを重ねたものの 殿上人である頼平と流しの白拍子である時姫とは明らかな身分違いでした。 時姫「さようなら、頼平様。」 悲嘆した時姫は頼平の目の前から ある日忽然と姿を消してしまい… 頼平「時姫、どうして…?」 悲しみに暮れた頼平は、 それから独り身を貫いていました。 清盛「頼平殿なら紬を 気に入るかも知れんしな。」 一途な頼平の気持ちは簡単には動かないかも知れませんがそれでも少しだけだったとしても可能性があるなら…と考えた清盛は鳴海に頼平と紬の縁談を持ち掛けました。 知盛同様兄の事を気に掛けていた鳴海は清盛の気持ちが嬉しいようで… 鳴海「では、明日にでも兄にお逢い なさると良いかもしれません。」 とても乗り気な返事をしていましたが 紬はあまりにも急すぎる縁談話に… 気持ちの整理がまだ出来ていません。 知盛「紬、不安?大丈夫だよ? 鳴海の兄上なんだから…。」 紬「…私はその頼平様とやらにお逢いした事ないからよく分かりません。」 知盛に何かを言われると いつも嬉しそうに頷く紬ですが 今回ばかりは頷けませんでした。 しかし… 皆、紬の身の振り方を案じているようで誰ひとりとして宗盛を助けようとしていた者はいませんでした。 清子に追い掛けられ続け 大変お疲れな宗盛ではありますが 皆に文句を言う事は出来るようで… 宗盛「薄情ではありませんか?」 皆に疑問形ではありますが文句を言うと皆は見事に口を揃えて… 一同「自業自得!」 宗盛からの文句を一蹴しました…。
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