第4章 異世界転生した女性

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それからしばらく経った頃、 薬師(くすし)陰陽師(おんみょうじ)が清盛の屋敷へと呼ばれました。 薬師・(かおる)御前 母親である郷御前の頃から、 平家一門の病やお産を担当している。 芳御前「鳴海様、宜しくお願い致しまする。私は薬師の(かおる)。皆からは芳御前と呼ばれております。」 知盛「御前様、私は先代の御前様に取り上げて頂いたと母から聞き及んでおります。妻子を宜しくお願いします。」 芳御前「お任せ下さりませ。必ずや健やかなお産にしてみせましょう。」 こうして知盛の正室である鳴海は 芳御前の診察を受ける事になりました 芳御前「そうですね…。 今は三月といったところですね…。」 知盛「有難い。鳴海、健やかな子を産んでくれ…。僕も育児を手伝うから。」 知盛が喜んだのも束の間… 芳御前の妹で陰陽師の(さくら)御前から衝撃的な事実が告げられました それは… 櫻御前「しかし…残念ながら… この方には強き呪いが掛けられておりまする…もしや誰かは分かりませぬが知盛殿を思う方が怨念を発しておるのやも…。」 薬師の芳御前からは、〈懐妊〉と言われ喜んだ知盛を始めとする一門でしたが陰陽師である櫻御前から呪いまで告げられ知盛は悲しみと苦しみのあまり… 感情を抑えられませんでした…。 知盛「鳴海を苦しめるような奴は… この僕が絶対に許さぬ!誰ぞ、其奴は…調べることは出来ぬのか?」 そんな時、 時忠「姉上ー!」 時子「こんな時に来るなんて 縁起の悪い弟ね…」 清盛の屋敷を尋ねてきたのは、 嵐を巻き起こす男である平時忠(たいらのときただ)でした。 時忠「何ですか?何事ですか?姉上。」 平時忠(たいらのときただ)(38)… 清盛の継室である平 時子の実弟で どこから来るのか知りませんが決まって問題を持ってくる困った男。 時子「時忠、貴方はどこから 沸いて出てきたのかしら?」 決まって来る度問題を起こしたり 来ている時に限って問題が起きたりするので時子すらもこの頃は時忠に対する扱いを雑にしておりました…。 時忠「ひどいな、 可愛い弟を虫扱いですか?」 時子から雑な扱いをされた時忠は、 不機嫌そうな顔をしておりました。 時子「決まって問題を持ち込む 男のどこが可愛い弟かしら? それに貴方はもう可愛いだなんて 年齢ではないでしょ?」 時忠「そう言えばこんなものが屋敷の外に落ちていましたよ?」 時子からの辛辣な台詞は聞いてないフリでコメントを控えた時忠はあるものを平家一門の皆に見せました。 それは… 時子「この愚か者、姉の嫁ぎ先に呪具なんて持ち込むのはあんたくらいよ?」 呪具(じゅぐ)とは…読んで文字の如く人を呪うための道具でございます。 知盛「誰がこんな事を…。」 知盛は苦しげな顔をしながら その場に蹲ってしまいました。 清盛の屋敷に入る事が出来るのは、 一門の人間だけでございます。 だからこそ… 知盛「神は一門の人間を疑えとこの僕に命じられているのでしょうか?」 しかし… 宗盛「知盛、悲嘆しても仕方ない。 この呪具に犯人を特定するものがないか探してみるのはどうだろうか?」 珍しい事ではありますが、 宗盛が冷静沈着な態度で犯人について調べようと提案したのです。 こうして調べたところ、 呪具には夕焼けの絵柄が記され その近くに赤とんぼが… 時子「もしや時忠、貴方の娘ではないの?とんぼと夕焼けを好むのは…?」 時子から言われた時忠の脳裏に ある人物の名が過りました。 時忠「我が娘であるお夕かもしれん。」 お夕とは時忠の娘で幼き頃より知盛に 惹かれており聖と同じく正妻から産まれた子ではないものの母親は時忠の妾となっておりました。 しかし… 時忠には同時に 疑問符が浮かびました。 時忠「しかし…お夕が愛しき知盛殿の妻を呪うであろうか?私には解せぬが…」 知盛「鳴海を呪うなど許せん! 我が子も鳴海も両方無事でなければ 心から喜べないからな。」 時忠には解せなくても知盛は怒り心頭に発すといった状態ですので… 時忠「小枝(さえ)… お夕を今すぐ屋敷から連れて参れ!」 時忠は仕方なく小枝にお夕を連れて来るように命じました。   ちなみに小枝(さえ)とは、 お夕の乳母で時忠の側室の事です。 小枝「畏まりました、殿。」 小枝は急ぎ時忠の屋敷に向かいましたが牛車の速度はかなり遅いため、 清盛の屋敷から時忠の屋敷までは 15分くらい掛かりました。 小枝「姫様が誰かを呪うはずないわ。 絶対に真犯人を明かせてみせるわ…」 楓「小枝殿、 時忠様とお出掛けだったのでは?」 小枝と同期の侍女である楓が 小枝の事を見つけ話し掛けて来ました そのため、小枝は楓に知盛の妻である鳴海を呪うために使われた呪具を見せ 詳細を知らないか問う事にしました。 小枝「楓、この呪具知ってる? 平 清盛様の御子息である知盛様の奥方を呪うために使われたんだけど…。」 すると… 楓「これは幼き頃に時忠様が姫様に贈られた香を入れるための小箱。」 楓と小枝の期待を裏切るかのように、 状況証拠はお夕の犯行だと告げていたのでございます。 楓「仕方ないわ。姫様に確認するより他の手段がないのだから。」 楓と小枝はお夕の居室へと向かい 固く閉ざされた襖の前で…。 楓・小枝「姫様、御聞きしたい事がございますので…失礼しても宜しいですか?」 奥にいるはずのお夕に 問いを投げ掛けました。 すると… お夕「どうして… 私に罪を着せたの?」 相手「…。」 お夕「何とか言いなさいよ!」 相手「…。」 居室の中から誰かと言い争う お夕の声が聞こえました。 それも「罪を着せた」だの… 何やらただ事ではない雰囲気です。 小枝・楓「姫様、失礼します。」 2人がひと言断りを入れてからお夕の 居室に入るとお夕がある女性の肘を 掴んでおりました。 (ひじり)… 平 時忠の娘でお夕の異母姉。 知盛の許嫁であったが清盛からの鶴の一声と平家の総本家である知盛と縁を繋ぎたかった頼兼により一方的に婚約を破棄され恨んでおりました。 聖「離しなさい!アイツさえ!アイツさえ…居なければ…許さない!知盛様は私の全てだった。なのに後から来たあの女狐(めぎつね)!私の知盛様を…!挙げ句懐妊だと!それは私の役目だった!ゆ、許さない!あの女に制裁をくれてやらねば私は…私は…。子を産みたければ命を棄てるが良い!ハハハハハ!ハハハハハ!」 聖はお夕に腕を掴まれながらも 狂ったように笑い出しました。 聖「知盛様が髪を撫で抱きしめる。 そんな女は私だけのはず…。知盛様を愛するが故に憎くて仕方ないのよ…。ざまあみろ!鳴海。アハハッ…」 これは狂気の沙汰であるとしか 言い様のない状態でございました。 変わり果てた聖の姿に嶺子は嫡男である時実の背中に縋りついていました… 時実「異母姉上をこんな風にしたのは歪な家族関係と大人達の身勝手さです…」 時実と嶺子は怯えているだけですが、 状況も弁えず笑い転げる聖に対して 怒りを露わにした女性がおりました。 それは…
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