第6章 養子と実子。

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第6章 養子と実子。

時は流れること、 西暦1171年03月02日。 知盛の継室である紬は、 お産の真っ最中でした。 紬と知盛は共に19歳となり… この年で2歳になったばかりの 鳴海の忘れ形見である太郎は、 太郎「と?と?」 伯父である宗盛をとと(父上)と呼び始めこれには太郎の父親である知盛がかなり焦っておりました。 知盛「ととはこっちだ。太郎。」 清子「宗盛様は、 秈千代のととですものね。 私からすれば空気みたいな存在だけど…」 秈千代「キャッキャ。」 1歳になった秈千代は清子に抱かれて 嬉しそうに笑っていました。 但し… 宗盛「清子さん、もう少し優しい物言いが出来ませんか?私が傷ついてしまうではありませんか?」 宗盛は何だか泣きそうな声を出し… そんな夫に対して清子は、 心底煩そうな顔をしておりました。 清子「宗盛様はつくづく 極めて面倒な御方であると 理解出来ました。」 宗盛「…それは言い過ぎだろ?」 宗盛が清子からはっきり真実を告げられ悲しみのどん底に突き落とされていたまさにその頃。 知盛「それにしても… まだ産まれないのか?」 知盛は鳴海が悲しい結末を迎えてしまったので継室である紬の身が案じられてならないのです。 宗盛「知盛まで私を無視するのか?」 宗盛は知盛にまで無視され、 寂しそうな顔をしておりました。 すると… どこからいたのかは定かでありませんが何故か平家の総帥たる清盛がおり… 清盛「知盛、少しは落ち着け。 大事ない。紬なら子と共に必ずや 生還するさ。案ずるな。」 知盛に優しい声がけをしましたが、 間違えても宗盛のように… 宗盛「総帥、 どっから沸いたのです?」 無礼極まりない発言をしては、 自分に罰が返って来ますので… バチン! 清盛「時子、父親に対する口の聞き方をこの愚か者に教えておきなさい。全く」 目上の人に対する態度はきちんとしておくのが1番大切な心構えになります 時子「総帥、この子は物覚えが致命的なくらい悪いので叱ったところで1日持てば良い方でございます。それに 総帥・貴方様も目が泳いでいます。」   時子が冷静に指摘すると 清盛は、 清盛「仕方あるまい、 身が案じられてならぬのだ。」 広間にいる全員が 紬の身を案じておりました。   知盛「鳴海の次は紬だなんて… 許さないからな…。必ずや誰か分からぬ怨霊は僕の手で封印してみせる。」 鳴海を亡き者とした怨霊は、 聖のものでしたがそれは… 知盛が成敗しました。 しかし… 鳴海は三途の川を渡る事も出来ず 宮中の地下で地縛霊としてそのまま 過ごしておりました。 鳴海「…許さぬ…!」 知盛の知らぬところで怨みを深める 鳴海の地縛霊は憎しみにより目が 据わっておりました。 知盛「紬は大事ないのか?」 鳴海が地縛霊となりその場で留まり続けている事を知らない知盛は紬の事を案じ過ぎて今度は遂に独り言を口にしてしまったようです…。 すると…知盛の待ち焦がれた知らせを持って広間へ薬師の芳御前が来たので 早速、知盛は前のめりになりながら… 知盛「紬は大事ないのか?」 まさかの自らが呟いた事を もう1度繰り返す始末でした。 芳御前「奥方様は頑張りになられ 男児をお産みになられました。」 まだ時は平安時代末期。 現代のような医学などあるはずもなく 人々には薬と陰陽道により病を平癒させるより手段は他にありませんでした 紬「…」 そのため紬にとって初めてのお産は 痛みを激しく伴うお産となりました。 疲れ果てた紬は産まれたばかりの赤子の隣で寝ていました。 知盛は芳御前に呼ばれてスヤスヤと眠る妻子の寝顔を見つめておりましたが ふと不安になってしまいました。 それは… 知盛『鳴海の時みたいに僕を置いて紬は逝かないと想うけれど…』 鳴海を喪った事で知った悲しみと絶望 紬に逢ってそれらも少しずつ癒えたはずでしたが… やはり恐れは簡単に拭いきれず、 次の瞬間、知盛は芳御前に 紬の体調を尋ねていました。 知盛「で、紬の体調には可笑しいところはないのだな?」 芳御前「無論御無事ですが… 初めてのお産ですし長丁場となってしまいましたのでお疲れのあまり眠っておられますよ。」 間近で確認しているにも関わらず 物覚えの悪い兄とは違うはずの知盛。 だけど… ついつい確認してしまうのは、 知盛「紬を喪いたくない…」 紬の事が大切だからこその 想いからなのでした…。 すると… 清盛「太郎は私と時子が見ているから 紬に付き添いなさい。」 清盛も正妻である高階明子を病により喪っており宗盛らの母親である時子は継室となります。 だからこそ…知盛の懐く気持ちについては痛い程分かるようで… 時子「そうよ、やはり一仕事終えた後 夫の顔を見るのは格別よ。」 似たような考えを持っているようで、 あまり似てない考えを持っているこの夫婦ですが案外このような時は同じような考えを持っておりました。 太郎「とと、僕、祖父、いる。」 2歳になった太郎は、 発する単語の数が多くなったような 気がします。 清盛「祖父といようなぁ~。」 祖父といるなどと可愛い孫から指名を受けた清盛は大喜びなのですが、 時子「祖母はどうしたのかしら?太郎」 時子はどうやら不満げな様子でした。 時子の事はさておき太郎の事を 清盛と時子に任せた知盛は、 愛しい紬の側に座りその手を握って 目覚めるのを待っていました。 それからしばらく経つと、 紬は眠い目を擦りながら目覚め… 紬「知盛さん、もしかしてずっと手を握って下さっていたのですか?寝起きの姿を好いた方に見られるのは女子として極めて恥ずかしいのですが…」 顔を両手で隠しそっぽを向く紬に… 知盛は瞳を涙で濡らしながら… 知盛「ありがとう、紬 無事に産んでくれて… 本当にほっとしたよ…。 君もありがとう、 無事に産まれてくれて…。 君らを喪ったら僕は生きていけない。」 既に先妻を喪っている知盛からすると これ以上大切な家族を喪いたくない… そんな切なる願いが込められており 紬はそんな夫を抱きしめていました。 知盛「紬に抱きしめられるなんて… 普通は反対ではないのかな?」 紬の腕の中で 幸せいっぱいな笑みを浮かべながら 胸がいっぱいな知盛でした。 紬と知盛の間に産まれた子は、 高千穂と名付けられました。 知盛「神社の名前を付けると 産まれた子が長生きするらしい…。」 それから数週間が経った頃 太郎「かか?」 紬が高千穂の世話をしていると 太郎がヨチヨチとおぼつかない足取りで紬の元へ歩いて来ました。 紬「どうしたの?太郎。」 紬は高千穂をあやしながら 太郎の顔を見ていました。 知章「かか、僕のかか、どこ?」 すると… 太郎は突然大粒の涙を流し 母に逢いたいと懇願し始めたのです。 これには紬も困りました。 太郎の母親は彼を産んですぐ生き霊に 呪い殺されてしまったから。 太郎「かか、あ、いたい、」 太郎は泣き続けながら母への想いを 口にしていました。 紬「貴方の母上は遠くの国へ 旅立ってしまったのよ。」 紬も継母とは言え太郎の事は、 高千穂と同じくらい可愛くて大切に思っております。 それにまだ太郎は幼いので、 さすがに父親である知盛の従姉である聖の生き霊によりとり殺されて黄泉国(よみのくに)へ旅立ったなど… 紬『言えない、言えるはずもない…』 但し… 鳴海は 黄泉国には初めからいませんでした。 何故ならば… 鳴海「憎らしい…知盛様も太郎も私の家族なのに…他の女に慕われている知盛様など見たくもないわ…」 怒りと怨みにより鳴海は、 宮中で地縛霊となっていたからです… 怨みが強すぎるものが 三途の川を渡ると… 三途の川は瘴気で汚染され 黄泉国にいる者達が下界へと降りて来る危険性があるからでございます。 地縛霊となっていた鳴海は、 異種族への転生を果たして しまいました。 それは…
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