第7章 あやかし転生

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第7章 あやかし転生

~鳴海Side~ 武藤 頼兼の娘であり 知盛の正室だった鳴海は… 西暦1169年02月16日の事となりますが知盛の嫡男である知章を産むとすぐ、 命を落としてしまいました。 それからすぐ地縛霊となり宮中の地中深くで気配を潜めながらも地縛霊として怨みを発し続けてきた鳴海は、 悪魔・潮星「怨み骨髄に達したお前は 妖魔となり異種族転生を果たすのだ」 悪魔・潮星により強制的に 異種族転生をさせられたのですが… それは…とんでもない姿でした。  しかし… 地縛霊となり地中深くに潜んでいた鳴海に自らの姿を確認する術はなく… 鳴海「知盛様に逢えるなら… どんな姿になっても憂いはない…」 鳴海は異種族転生を果たすと、 命を落としてから久方振りに 表の世界へと歩みを進めました…。 悪魔・潮星「化け物めが… 愛しき男に退治されたら良い。 ざまあみろ!」 鳴海が地縛霊となったのは、 世の理にて仕方のない事でしたが、 これに関しては、 鳴海に住処を取られた 潮星からの復讐でした…。 そんな事など知る由もない 鳴海は宮中へと向かいました…。 鳴海「異種族転生だなんて孔雀とかあの辺りでしょう?孔雀なら優雅ですから宮中にいても支障ないわ…」 悪魔・潮星による転生を甘く見ていた鳴海は甘過ぎる思い込みをしてしまうのでございます。 すると… 建春門院中納言・藤原鳴瀨 「建春門院様がお召しになられる 春用の単は用意できたの?」 建春門院中納言・藤原鳴瀨は、 武藤鳴海の同期で藤原氏ではあるものの育ちを自慢しない良い意味で サバサバしているところが…鳴海は 大好きでした。 建春門院少納言・ 源順子(みなもとのよりこ) 「まだです。」 建春門院少納言・源順子は、 源頼政の娘で平家に味方した事により 建春門院に仕える事が出来ました。 鳴海「まぁなんて準備が遅い女房かしら?私ならさっさと用意するのに…」 鳴海は準備を手伝おうと2人の近くに 行きますがその2人は… 鳴海の顔を見るなり顔面蒼白状態となってしまったのでございます。 何故ならそれは… 藤原鳴瀨「く、く、蜘蛛!」 源順子「毒グモなら… 刺されたら大変です…。 どなたかを呼んで参りますね…。」 「蜘蛛?誰の事を蜘蛛だと言うの? あまり悪口を言うと許さないわよ」 鳴海が顔をしかめると2人は、 一目散に走って逃げてしまいました。 「あの驚き様はおかしいわ。 私の姿、どうなっているのかしら? 孔雀ならあんなに驚かないでしょうし…不可思議な事もあるのね…」 不審に思った鳴海は、 宮中の隅っこに少しだけ雨水が溜まっていたので自らの顔を確認したところ 鳴海「鳴瀨が騒いでいたのは、 やはり私の事だったのね?」 映っていたのはなんと白くて大きな 巨体をした蜘蛛だったのです。 「私は蜘蛛のあやかしに転生してしまったという事かしら?なんて事…。」 それから少し経つと鳴海の元に 懐かしい声が聞こえてきました。 藤原鳴瀨「出たんです。蜘蛛が… 大きな蜘蛛が…。」 藤原鳴瀨が懸命に説明している相手は宗盛と知盛でございました。 宗盛「しかし…猫騒動の次は、 蜘蛛騒動か?虫は苦手なんだよ。 可愛くないから…」 虫が大嫌いな宗盛は、 虫が出ると従者である隆義(たかよし)に全て丸投げする始末です…。 知盛「兄上…。何でも騒動を付ければ 良いものではありませんし可愛らしい虫などどこにいるんですか?」 そんな宗盛の隣で爽やかに突っ込みを入れているのは… 鳴海をこの世に縛り付ける未練となっているくらい未だに愛しい知盛です。 鳴海『と、知盛様。』 鳴海が思わず声を発すると 知盛は頭を抱えてしまいました。 知盛「頭が痛い。何やら誰かに呼ばれているような気がする。」 知盛の心へ訴える事が出来た鳴海は、頭痛を訴える知盛の容態を案じながらも再び知盛の心へ訴える事にしました…。 鳴海『知盛様、私を見て。 ここにいるのよ。』 すると… どうやら知盛へ想いが通じたようで、 知盛はあちらこちらキョロキョロしながら鳴海を探し始めました…。 知盛「鳴海?どこにいるんだ?」 鳴海『知盛様の近くにいるわ。 この白くて大きな蜘蛛が私だから。』 知盛「何だって?」 知盛は亡き先妻が蜘蛛のあやかしへと異種族転生を果たしたというあまりの事実に愕然としてしまいました…。 しかし… 宗盛と藤原鳴瀨はそんな知盛の事を 不思議そうな顔をしながら見つめて おりました。   どうやら彼らには鳴海の訴えが聞こえないようでそんな彼らからしてみるとさっきから知盛が独り言を言いながら表情をコロコロ変えている奇妙な光景がそこにはありました…。 なので… 宗盛は気になるもののあまり知盛とは仲良くない藤原鳴瀨が聞きにくい事を代わりに聞く事にしました。 宗盛「知盛、大丈夫なのか? さっきから独り言を呟いておるではないか?芳御前に診て貰わずとも良いのか?それとも妹の櫻御前か?」 心配しながら知盛に問うと 知盛は複雑そうな顔をしながらも… 知盛「兄上、鳴海がこの世に対する未練が多すぎたみたいで白くて巨大なその蜘蛛のあやかしに転生してしまったようです。」 宗盛「何と!しかし…すまん。虫は… 俺、虫だけは苦手なんだ。」 知盛「兄上…。 鳴海とて好きであやかしに なった訳ではありませんよ。」 宗盛「それもそうなのだが…。」 知盛「兄上…。宮中にいるであろう 陰陽師達をお呼び下さい。もしも 鳴海が成仏出来る方法があるなら 僕の手で助けたいのです。」 知盛は手が白くなりそうなくらい 拳を強く握りしめていました。 知盛『あの時、苦しむ鳴海を助けられず僕は夫失格だったから今度こそ助けてみせる。1度は愛した人だから。』 知盛は心の中で強く決意しました。 あやかしに転生する程踠き苦しんでいる鳴海の魂を必ずや自分が救う事を…。 宗盛「了解した。 あと、念のため館にも連絡しておく。」 宗盛は虫の相手をしなくても良いので ルンルンと鼻唄でも口ずさみそうなくらいの軽やかな足取りで陰陽師を呼びに行きました。 知盛「兄上!逃げたな…。全く 頼りにして欲しいなら頼られる兄上になって欲しいものだ…」 知盛の独り言は宗盛には届かず 知盛はあやかしへと異種族転生した 鳴海と向き合う事になりました。 知盛『必ず僕が救い出す。』 鳴海『知盛様…頼りになるのは、 やはり貴方様だけですわ…』 ちなみに… 陰陽師と言っても宮中に控えている陰陽師は芳御前の夫である力丸と櫻御前の夫である佐吉の2人のみですが… 陰陽師・力丸(りきまる) 「それは大変ですな。そうだ。 館への連絡は我らにお任せ下され。」 陰陽師・佐吉は力丸の言葉に頷くと式神を清盛の屋敷の方角へと飛ばし… 佐吉「必ずや総帥に危機を伝えよ。」 式神は佐吉の命令通りに清盛の屋敷を 目指して飛んでいきました。 それを見届けた陰陽師・力丸は、 優しげな微笑みを浮かべながら頷き 力丸「出来たではないか。やはり 陰陽師たるもの式神を飛ばす事が出来なければ仕事にならんからな。」 師範として佐吉の事を誉めました。 佐吉「試験合格ですね。これで櫻御前に相応しき夫になれたかな…」 佐吉も妻である櫻御前から陰陽師として陰陽道の試験には必ず受かりなさいと言われ続けておりますので…ほっとしたようで嬉しそうにしていました。 但し… 宗盛「平家一族の危機に陰陽道の試験なんか行わないで欲しいな…。全く。」 宗盛にとっては弟と一門の危機を 陰陽道の試験として利用され複雑な事この上なしでした。 力丸「でも大切な事ですよ、このようにその場を動けない時に連絡手段として使ったり…。」 力丸の言葉は真面(まとも)でしたが 佐吉の言葉は極めて物騒でした。 佐吉「信西殿を自害に追い込んだ源氏の生き残りを暗殺するとか…。」 式神を使って暗殺を企てるとは、 まさに物騒過ぎる所業ですが、 佐吉は平治の乱で自害へと 追い込まれた信西の親類でした。 宗盛「式神の使い方間違ってるよ、 まさに物騒過ぎる陰陽師だな…」 宗盛の言うとおり 目には目を歯には歯をでは… 憎しみが増えるのみでございます。 すると… 力丸が重要な事を口にしました。 それは… 力丸「頼朝なら伊豆へ流罪だから 京には戻って来れんだろう。」 佐吉「でも…式神を使って暗殺したら僕がしたってバレないでしょ?」 宗盛「いや、ダメだろう。」 佐吉のの物騒な話に全く突っ込まない力丸の代わりに宗盛が突っ込みを入れているまさにその頃…。 佐吉が放った式神は無事清盛の 屋敷に到着して時子へ息子達の 危機を伝えました。 式神「知盛殿の先妻・鳴海があやかしに転生し宮中にいます。何とかしなければ宮中にいる皆が危険です。」 それだけ告げると式神は仕事を終え バラバラの紙吹雪となりました。 時子「総帥!あなた!清盛様!大変!」 すると清盛は顔をしかめながら 時子に告げました。 清盛「時子、 まずはそなたが落ち着くが先決ぞ。」 時子「これが落ち着いていられないのです。鳴海ちゃんが成仏出来ずに蜘蛛のあやかしとなり宮中に現れたそうです。宗盛が心配だわ。あの子は虫が苦手だから。」 清盛「何だと!」 清盛は時子の話を聞くと自らの居室の床の間に置いてある先祖代々伝わる悪魔払いの太刀を持ちました。 時子は扇に退魔の札が貼られた 何やら怪しげ?なものを持ちました。 清盛「時子、何だ? その怪しすぎるものは…。」 時子「怪しすぎるとは失礼ですね。 時忠が持ってきたんですよ。姉上を御守りする扇だと言いながら…」 時忠はいつもインチキ商品を持ち込んでは高値で姉の時子に売りさばくため清盛はそんな時忠にあきれ果てておりました…。 清盛「お主もまたインチキ商品を買わされたのか?懲りぬのぅ…。それより今は…友清、牛車を連れて参れ。今より宮中へ向かう。」 従者の友清に牛車を連れてくるよう 命じその言葉に従った友清は牛車が 置いてある場所へ向かいました。 清盛と時子が友清を待っていると 侍女のみつが太郎と手を繋いで その後ろから産まれたばかりの高千穂を抱えて紬がやって来ました。 紬「お2人ともそんな所で どうなさいました?」 時子「紬ちゃん…知盛の先妻だった 鳴海ちゃんがあまりに未練が強すぎて あやかしに転生して宮中にいるみたい。」 紬「なら…私も行きます。」 清盛「ならぬ…。子らも幼いし鳴海は そなたをとり殺すやもしれん。」 時子「彼女は、 誰よりも知盛を慕っていたものね。」 その時太郎が声を上げました。 太郎「かか、まもる、いく。」 太郎はみつの手を振りほどくと 紬の単の裾を掴み引っ張りました。 紬「私も知盛さんが…貴方のとと様が 心配だから一緒に行きましょう。」 清盛はあきれて溜め息を吐きましたが 時子は逆にニコニコしていました。 時子「愛って尊いわ。総帥、私も あんな時代があったのかしら?」 清盛「君は今も変わらず美しいから 大丈夫さ。」 時子「まぁ…総帥ったら…」 友清「牛車の支度が出来ました。」 清盛「よし!家族を救いに行くぞ!」 一同「おー!」 こうして清盛、時子、太郎、紬、 高千穂、それに乳母のみつは牛車に乗り込み宮中へと向かいました。 清子「私は秈千代とここにいます。 館の住人全員が出てしまっては物騒ですから。」 清盛「確かに平家の一族は財がたくさんあると誰かさんが触れ回ってくれたせいで近頃盗人が多くて叶わん。」 清盛が時子の顔を見ると時子は恥ずかしそうにうつ向いていました。 その様子からも察しがつくとは思いますがそんな事を触れ回ったのは…。 時忠「ハクション!誰か噂をしているな。そんなに俺が美形なのか?」 見当外れな事を言いながら姿見に映し 自らの姿にうっとりしている自意識過剰な歩くトラブルメーカー。平時子の同母弟平 時忠でございました。 時子「時忠の愚か者には後で きついお説教をしておきますわ…。」 と、言いながらも時子は 時忠には甘いのでお説教は出来ないと分かっているのですが清盛も時子には甘いので何もコメントはしませんでした…。 清盛「屋敷の留守は任せたぞ、清子。」 清子「もちろんです、総帥。」 屋敷の留守は清子に任せ 一同は張り切って 宮中へと向かいました。 一方宮中では… 陰陽道の試験も無事に通過した 陰陽師・佐吉が、 佐吉「変化!」 虫が嫌いな宗盛のために鳴海を 人間の 形態に変えていました。 鳴海「知盛様、 宗盛義兄上様。 久方ぶりにございまする。」 知盛「ああ、久方ぶりだな。」 宗盛「良かった、 人間形態なら大丈夫だ で、話を本題に戻すと気がついたら鳴海ちゃんは蜘蛛のあやかしに転生していたと。」 鳴海「そういう事になります。」 鳴海が本来の姿の時は青白い顔をしながら遠巻きで見ていたというのに…。 本当に筋金入りの虫嫌いな宗盛に対していつもなら突っ込むはずの知盛も… 成仏していると思っていた鳴海があやかしに転生していた事を知りそれどころではありません。 哀しげな顔をしながら 鳴海を見つめていた知盛は 知盛「どうして成仏出来なかった?」 ずっと気になっていた 事柄を鳴海に問いました。 鳴海「知盛様に…あの時産まれた 太郎にひと目で良いから逢いたいと願ったせいかしらね。」 鳴海が心中を吐露すると知盛はまた 哀しげに顔を歪ませていました。 知盛「太郎は君の子だ。 君が逢いたいなら逢わせてやりたい。」 鳴海「なら、連れてきて下さりませ。」 知盛「しかし…僕にはもう既に継室が いるから太郎に同伴して付いて来るで あろうな。」 鳴海「継室…?私を喪ってすぐに貴方は他の女と祝言を挙げたと言うの…!それは誰!どの女!そこの女かしら?」 鳴海は怒りのあまりそこら中にいる女性に蜘蛛の糸を吐き続けました。 女官・桜「きゃあー!」 女官・梅「あーれー!」 このままでは宮中が大惨事になると思い意を決した宗盛は、 宗盛「知盛の継室になったのは、 君が生前指導を拒んだ紬だよ。 総帥から是非継室になって欲しいと言われて太郎も知盛との間に産まれた高千穂も大切に育てている。」 その瞬間、鳴海の人間形態が解け、 本来の姿に戻ってしまいました。 宗盛「ぎゃあー、虫!虫!虫、嫌!」 情けない事に宗盛、この場にいる女房達よりも怯えきっておりました。 顔面は蒼白になりガタガタ震えながら ぎゃあぎゃあ叫んでいたのでございます。 鳴海はそんな宗盛には目も暮れず 白くネバネバした糸を吐き出し 知盛をぐるぐる巻きにしました。 知盛「鳴海!何をする?」 鳴海…いや… 鳴海の魂を受け継いだあやかしは ぐるぐる巻きにした知盛の上に乗り 離れようとはしませんでした。 力丸「知盛殿!悪霊退散!」 力丸が悪魔払いのお札を貼り付けるものの蜘蛛はびくともしません。 霧雨「我が名は霧雨(きりさめ)。 愛しき知盛様は私だけのもの。 未来永劫、離しはせぬ!ああ、 知盛様。貴方は私の…宝物。」 佐吉「宗盛殿、震えていないで 弟君をお助け下さりませ。」 宗盛「だ、だって…。む、虫! 虫は…大嫌いだ!」 宗盛のヘタレぶりに佐吉と力丸があきれ果てておりましたら時忠が騒ぎを聞きつけてやって参りました。
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