第7章 あやかし転生

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時忠「知盛、無事か?しかしどうしてそなたはそんなに虫が嫌いなのだ、宗盛?」 宗盛「そんな事を言われても虫は嫌いなのです。嫌いなものは嫌いなのです。」 宗盛は震えながらも 叔父に返事をしました。 知盛は鳴海…いや…霧雨の吐き出した 蜘蛛の糸で雁字搦め《がんじがらめ》になり身動きは取れないようですが…。 知盛「叔父上…?身動きは出来ませんが話す事は出来ます。」 霧雨「身動きが取れたら知盛様は、 あの女の元へ向かうだろうから… 身動きは取らせない。だけど愛しき人は苦しめたりはしない。嗚呼、知盛様。誰にも…誰にも…渡しはしない。」 霧雨は人間形態になると糸でぐるぐる巻きにした知盛をきつく抱きしめました。 霧雨「蜘蛛の姿のままが抱きしめられないしあまり醜い姿を愛しき人には見せられない。だから陰陽師がかけている術を見よう見まねでしてみたら出来たってわけさ。さて…愛しき知盛様。2人だけの世界へ行きましょう。」 チュッ。 霧雨が知盛の頬に口づけをすると 知盛は気を失ってしまいました。 霧雨「これなら知盛様を連れ去る事が 出来る、誰にも渡しはしない。愛しき人。ああ、私だけの知盛様。」 気絶した知盛を運ぼうとまた霧雨は 蜘蛛の姿になりました。 宗盛「ぎゃあー、虫!」 時忠「弟の危機に叫ぶな! みっともない!」 絶体絶命(ぜったいぜつめい) 弟の危機にも関わらずぎゃあぎゃあ叫び倒している宗盛を叱りながらも時忠の頭の中にそんな言葉が過ってしまいました。 時忠『どうしたら良い?』 その時霧雨の前に現れたのは…。 清盛「我が子・ 知盛を離して貰おうか?」 時子「鳴海ちゃん! 知盛を解放して!」 舅と姑でしたが実の父母のように 思っていた総帥とその継室。 そして… 太郎「かか?」 紬に手を引かれているのは知盛と鳴海の間に産まれた太郎でございました。 紬「知盛さん!」 優月が知盛の側に駆け寄ろうとすると 霧雨は憎しみに顔を歪ませ 霧雨「させないよ!」 蜘蛛の糸を吐き出しましたが 紬は何とか避けました。 霧雨「この女狐! 私の知盛様を帰せ!」 霧雨は尚も紬に対して蜘蛛の糸を 何度も何度も何度も吐き出しますが…。 時子「紬ちゃん、 これを使いなさい!」 時子が紬に向かって投げたのは、 お札が貼ってある扇でした。 清盛曰くインチキ商品ですが せっかく借りたので…紬は、 そこには触れずに… 紬「義母上様、ありがとうございます。必ずや知盛さんをお助けします。」 爽やかにお礼を告げました。 霧雨「お前こそ私の代わりに黄泉国へ 送ってやるわ!」 霧雨が恨みの込めた糸を紬に向かってまた吐き出そうとすると… 太郎「かか、だめ!」 太郎が霧雨の背にしがみつきました。 霧雨「た、太郎…。く…。 あまり我が子の前で見苦しい姿を晒したくはありませぬ。どうか私を祓って下さいませ。ただし…知盛様、その役目は貴方様にして頂きたいのです。」 霧雨が苦しげに呟くと知盛の目が開き 身体の自由を奪っていた蜘蛛の糸が バラバラになり消えてしまいました。 清盛「知盛、これを使え。」 清盛が知盛に与えたのは聖の生き霊を 祓うのに使用した悪魔払いの太刀。 知盛「はっ!先祖代々の太刀。 大切な人を護るため使わせて頂きます。悪霊退散!鳴海、成仏してくれ!頼むから!」 知盛は溢れる想いと溢れる悲しみを 一太刀に込めて悪魔払いの太刀を振るい霧雨を一刀両断しました。 霧雨「ぐ…。太郎、知盛様、ありがとう。そして紬。2人をお願いね。」 紬「必ずや幸せにします。2人とも 必ず…貴女の分まで、だから成仏して 下さりませ。」 霧雨「あ、ありがとう…。」 こうして知盛と太郎から突然離されてしまった鳴海が転生してしまった白き巨大蜘蛛のあやかし・霧雨は愛しき人に祓われ天へと昇って逝きました。 知盛「鳴海は今度こそ成仏したかな?」 紬を抱きしめながら問う知盛に紬は、 紬「大丈夫だと信じましょ?」 知盛「そうだな、 信じるものは救われる。」 紬「そういうことです。」 太郎「とと、かか、助けた?」 紬「ええ、貴方のとと様は立派に お役目を果たされました。」 太郎「とと、ありがとう。」 知盛「ああ、助けられて良かった。」 知盛は少し落ち着いてから 紬に確認しました。 知盛「あれ?高千穂は?」 そう太郎の姿はあるのに 高千穂の姿がないのです。 すると…少し離れた牛車からみつが 高千穂を抱いて降りて来ました。 紬「あやかしとの対決になるから 幼子達は危ないだろうと思って みつに頼んでいたのだけど…。」 太郎「かか、僕、まもる。」 知盛「そうか…母上を助けたかったんだな。ありがとう。太郎。お陰でととも助かったよ。」 知盛は太郎の頭を撫でながら誉めました。 太郎「フフッ。」 知章は何だか誇らしげでした。 すると知盛達から少し離れた所にいた 時子が知盛達の元へ歩み寄って来ました。 時子「良かった、皆が無事で…。 鳴海ちゃんに知盛が連れ去られそうに なった時生きた心地がしなかったわ。」 時子は泣きそうになっていました。 知盛「母上様、お助け頂きまして 本当にありがとうございます。 で、ちなみにこの扇は如何したのです?」 時子「ああ、これは時忠から安く譲り受けたものよ…ど、ど、どうかしら?平安貴族には扇は必須だしいざという時は祓う術にもなるわ。」 紬は申し訳なさそうに首を振っていたので知盛が代わりに… 知盛「母上様、せっかくですがこの扇では宮中に出仕した際目立ってしまいまする。」 紬は知盛の言葉に 何度も頷いていました。 時子「えー?斬新だし良いじゃない?」 清盛「時子。 扇に斬新さなど誰も求めておらぬ。」 清盛の言葉に皆が同意の意思を示し 頷いておりました。 ただ1人この男を除いては…。 宗盛「えっ?良いですよね?母上…。」 戦の最中でさえ 「鎧はダサくて重いから嫌。」と 狩衣を着ているこの男こそ全てにおいて斬新だと思う。 時子「ねぇ、宗盛もそう思う?」 斬新な服装や小物に共感する2人に この場にいた全員があきれ果てていました。 一同「はぁー(溜め息)」
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