7人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ
第8章 建礼門院入内
西暦1172年正月。
清盛の屋敷は、
いつも以上に賑わっていました。
知盛「徳子が…
高倉帝に入内するのですか?」
平 徳子…
清盛と時子の間に産まれた娘でこの度
高倉帝に入内する事となりました。
清盛「左様、
入内の支度をせねばならん。」
高倉帝に入内しているのは徳子だけではなくもう既に3人程女御がおり
中でも梅壷の女御が1番の寵愛を得ていました…。
梅壷の女御・藤原桜子
藤原氏の絶世期はとうに過ぎたものの
桜子の父親である藤原隆信はまだ諦めておらず藤原氏復権のため桜子を中宮にする必要がありました。
しかし…
平家とて一門が栄華を誇るため、
中宮の道を譲る訳には参りません。
宗盛「徳子、入内するからには中宮になり必ずや皇子を産むのだぞ。」
皇子を産む事が出来れば徳子は国母となり平家一族はますます繁栄します。
徳子「重要な役割ですね。
どうにか頑張らせて頂きますわ。」
徳子は乗り気ですが母である時子は、
気が気でない様子でした…。
時子「皆、あまり徳子に負担を掛けないで下さりませ。ただでさえ帝に嫁ぐというだけで押し潰されそうなくらいの重圧感だと申しますのに…。」
平家は今でこそ殿上人として有名だが
元々は源氏と対の武家である。
武家の娘が帝に嫁ぐなど前代未聞であり大変恐れ多い事である。
ましてや…
中宮になるだの皇子を産むだの…前代未聞過ぎて言葉も出ない程だ…。
が、しかし平家の一族の中で徳子より
先に入内している方がいる。
それは…建春門院。
しかし建春門院は帝ではなく、
上皇の后として宮中に入ったのだ。
徳子「しかし…
時の帝に嫁ぐ事になろうとは…
母上の御言葉で不安になりましたわ」
乗り気だったはずの徳子でしたが、
素直な性格をしていますので、
どうやら時子の不安が伝わったようで
不安になってしまったようです…。
知盛「母上…。徳子の性格を御存知でしょう?どうして不安を煽るような事をなさるのですか?」
知盛はあきれ果てましたが、
同時にある人物の事を思い出しました
その方は…
知盛「建春門院様も宮中にはいらっしゃるし何も不安に感じる必要はない。」
高橋と太郎、それに紬。
大切な人達に囲まれた
知盛が優しく笑い徳子の不安は
少しだけ落ち着いたようでした…。
徳子「兄上…。そうですね。
気持ちが少し軽くなりました。」
紬「私もお手伝い出来る事がありましたらお手伝い致します。」
徳子「義姉上様、ありがとうございます。ただ義姉上様は子育て中でございますからお気持ちだけで大丈夫ですよ。」
お気持ちだけと言われても知盛の妹である徳子のために何かしてあげたいと思いながら具体的な案が出ず…
紬「うーん。」
紬はとても悩んでいました。
その時、高千穂を腕に抱きながら
太郎と手を繋いで知盛が優月の元へ
歩み寄って来ました。
知盛「どうかした?紬?
元の世界に還りたいの?」
知盛は哀しげに目を潤ませながら
紬に問い掛けました。
元の世界と言っても紬は、
不慮の事故で死んでしまい
異世界転生を果たしたので…
紬『還りたくても
還る事など出来ないのですが…』
と、言ったところで知盛には、
異世界転生などと言ったところで
分からないはずなので…
紬「そんなこと、絶対に思いません。
私の居場所なら知盛さんと太郎、それに高千穂が作ってくれたではありませんか。」
紬の答えを聴いた知盛は心底嬉しそうな弾けた笑顔をみせました。
知盛「じゃあなんで悩んでた?」
紬「徳子様に気持ちだけで大丈夫と
言われたけど私にも何か出来ないかと
思いまして。」
知盛「紬、君は優しいね。
徳子の事を…僕の妹の事を…大切に考えて貰えて本当に嬉しいよ。」
紬「大切な方の妹君ですから。」
知盛「紬…。誰よりも君を想っている。いつも隣にいてくれて僕を助けてくれて本当にありがとう。」
さて…高倉帝は大の猫好きなので、
高倉帝「朕の可愛い唐猫の三毛。」
ちなみに宗盛は未だに三毛猫の唐ちゃんと呼び皆がその物覚えの悪さにあきれ果てておりました。
宗盛が物覚えの悪い人間というのは、皆、既に承知だと思うのでそれはさておき…徳子も猫を連れて入内する事になりました。
清盛「猫ならばやはり唐猫か?」
猫嫌いな清盛ですが帝の外祖父になる夢のためなら猫だろうと何だろうがどんと来い!でございます…。
知盛「やはり唐猫でしょう。」
高倉帝も唐猫を溺愛しているので
唐猫と唐猫は相性が良い気がすると
清盛と知盛は唐猫派です。
時子「いいえ、ここは三毛猫です。」
宗盛「敢えてここは三毛猫ですよ。
独創性がある方が数いる女御の中で
目立つ気がしますし他の女御も唐猫を
連れている人がいるかもしれません。」
目立つのが何より大切だと時子と宗盛は独創性を優先するべきだと主張。
さてさて双方2人ずつ。
これでは引き分けになる…。
なので…
清盛「紬、
そなたはこちらの味方であろう?」
知盛「こちら側だよな?紬。」
愛する知盛と平家の総帥である清盛。
時子「総帥、ずるいですわ。
紬ちゃんは私達の味方ですよね?」
宗盛「紬、はっきり言うのだ。
我らの味方だと。」
知盛と兄弟の中でも1番仲が良い宗盛と面倒見が良い優しい姑・時子。
紬は少しばかり悩みましたが、
そこは…やはり…。
紬「知盛さんの意見に従います。」
平 知盛の継室である紬は、
唐猫派となり唐猫有利かと思いきや…
清盛「唐猫3票入ったぞ。」
時子「う…。まだまだ…。」
宗盛の正室である清子は…。
清子「宗盛様と同意見です。」
三毛猫も3票となりました。
あーでもない、こーでもない。
一族の中で意見が噛み合わずこの論争はかなり長い時間続きました。
時子「埒が開かないから
本人に聴きましょう。」
時子の一声で徳子が皆の前に呼ばれて
決断を迫られました。
徳子「私は唐猫に致します。」
清盛・知盛・紬「やったぁ!」
時子・宗盛・清子「残念!」
西暦1172年01月11日。
徳子「父上様、母上様、兄上様方、そして義姉上様方、本当にお世話になりました。」
徳子が唐猫の寄宮と共に入内する事になりました。
清盛「う…う…う…。」
清盛は愛娘の入内に感極まり朝から
号泣しておりました。
宗盛「総帥…みっともないですぞ。」
清盛「何だと!総帥に向かって
みっともないとはなんだ!」
宗盛は清盛からの鉄拳制裁を見事に食らい…その次の瞬間頭を押さえながらその場に踞ってしまいました。
宗盛「痛い!痛い!痛い!」
相変わらず一言が多く清盛から
鉄拳制裁を受けるのにも関わらず
ベラベラと話しちゃう困った人です。
さて徳子は住み慣れた清盛の屋敷を離れ帝の元に入内する事となりました。
徳子「皆が居ないと不安だわ。」
そんな徳子を励ますように寄宮は
にゃーと鳴きました。
徳子「ありがとう、寄宮。」
知盛「なんとかなるものさ、
人生とは意外な事に…な。」
徳子「はい、行ってきます」
最初のコメントを投稿しよう!