第10章 亀裂

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智信のお陰で常葉、錦、知行、光の命は助かりましたが…。 錦達を我が子同然に育ててくれた 盛運らはもうこの世におりません。 錦「う…。住職!」 錦はあまりに深い悲しみを堪えきれず その場に踞り慟哭しました。 智信「俺がもっと早く帰っていれば。」 智信と錦が自らを責めている…。 その光景を見るに耐えかねた常葉が… 常葉「私の責任です、私があの時、 助けを呼ばなければこんな事には…。」 うつ向きながら自らを責めると2人は 首を振りました。 智信「常葉の責任ではない。 あんな男に気高き常葉を奪われずに済んで俺はほっとしている。」 錦「常葉殿を助けた事に後悔などない。」 常葉「ならばお2人とも、 御自分をこれ以上お責めにならないで 下さりませ。」 常葉に諭され2人は 優しく微笑むと頷きました。 錦「身の振り方を考えねばならんな。 寺を再建し無念の内に逝ってしまった 皆を弔わなければならん。」 錦は当分、 智信の家で世話になる事となりました しかし… 錦は僧侶なので いつまでも還俗した弟弟子の 世話になる事も出来ないのです。 なので…お寺を再建する必要があるのですが錦だけではさすがに無理です。 そこで錦は白山寺と縁深き延暦寺の座主である妙雲を頼る事にしました。 錦から出された文は1週間後 妙雲の元に届きました。 妙雲「なんだと!」 実はこの妙雲と弟弟子が 今は亡き盛運でお互い励まし合いながら厳しい厳しい修行の道をまい進して来ました。 妙雲「弟弟子の命を理不尽に奪った 師経、絶対に許さんぞ!」 延暦寺の僧侶達は妙雲の指示により 武装して京へ乗り込みました。 これは平安時代において有名になっていた「強訴」《ごうそ》になります。 強訴の集団はやがて 後白河院の御所前に着きました…。 成親「貴殿らは何が目的なのです?」 成親が院の代わりに僧兵らに要求を 聞くと妙雲が口を開きました。 妙雲「藤原 師経とかいう男が人妻に 懸想した揚げ句その人妻を助けた 白山寺の僧侶を苦しめるため火をつけましてな。それでその僧侶以外は皆、死んでしまいました。そしてその僧侶から助けを求める文が来たので罷り越しました。ところで白山寺の住職である盛運は我が弟弟子でな。我らとしてはその師経とやらを到底許す事など出来ません。なので流罪にして頂きたい。」 これには 後白河院も従うより道はなく… 師経「離せ!離せ!これ以上の田舎など私は行きとうない!父上!父上!」 師経は島流しにされましたが 延暦寺側の怒りは到底収まらず、 妙雲「国司の師高も流罪じゃ。」と 要求しましたが重臣である西光に気を使い後白河院は師経のみ島流しにしました。 これに得心行かぬのが 西光でした…。 次男と言えども 嫡男と等しく可愛いもので… 西光「院、後生ですから師経の流罪を 放免として下さりませ。人のものに手を出さぬよう言い聞かせますから。」 涙ながらに訴える西光と… 師高「院、私もきちんと人のものを取らぬよう言い聞かせますので弟をなにとぞ。」 これまた涙ながらに訴える師高。 誰より大切だった建春門院が崩御してからというものこの2人の重臣が何より大切になっていた後白河院は、 後白河院「妙雲を捕まえ 伊豆に流罪だ!」 役人を延暦寺へ向かわせ妙雲を捕らえ その日の内に島へ流罪にしました。 妙雲を流罪にしてすぐ後白河院は 師経を京へ戻しました。 またもやこれに得心いかぬのが 延暦寺です。 延暦寺僧侶・津路沼 「何故座主様が捕まり島流しになるのだ?納得出来ぬわ…」 延暦寺僧侶・成仁 「全くだ。得心どころか 意味すら分からん。」 延暦寺側は、 再び後白河院に強訴しました…。 しかし… 延暦寺の意見は無視され続けており それどころか師経が全て悪いのに、 後白河院は今度は平家に無茶な要求を命じました。 それは… 清盛「院、 お呼びでございましょうか?」 後白河院「清盛、平家の全力を持って延暦寺を討伐せよ!」 清盛「…はっ?」 後白河院「師経を流罪にした憎き妙雲を流罪にした途端に反抗する寺院など許さん!」 これには清盛も困りました。 何故ならば妙雲と清盛は仲がとても良く現在の言葉で言うなら「ツーカー」の仲というところなので… 知盛「総帥、如何なさいます?」 紬「総帥?」 清盛「どうするか?と言われても 後白河院側が悪いのは明白。 妙雲殿が怒るのも至極当然の事なり。」 紬「でも院は、 得心なさらぬかもしれません。 私と重盛異母兄上は微妙な立場に置かれてしまいますわ。」 重盛と紬は後白河院に仕えており、 知盛らは高倉帝に仕えております。 それ故平家の人間でありながら院の近臣でもある重盛と紬は微妙な立場に置かれてしまうのです…。 それは後の事にはなりますが、 清盛は後白河院からの要請を悉く 無視していました。 しかし…05月28日。 知盛「総帥、紬が帰りませぬ。」 院の元に出仕した紬が夜になっても 帰らず不安に駆られた知盛は、 清盛の居室へと駆け込みました。 清盛「もう亥の刻 (現在で言うと夜の8時頃)。 幾ら何でも遅すぎる。」 清盛は従者である友清に重盛を呼んで来るように命じました。 清盛の嫡男であり知盛らの異母兄である重盛は継母である時子に気を使い清盛の屋敷から三軒隣に屋敷を構えていました。 友清「重盛様、紬様が…治部卿局様が 館に戻られないのです。その件で総帥が来るようにと仰せでございます。」 重盛「治部卿局?おかしいな。 私と同じく夕刻には帰宅したはずだが。取り敢えず父君からの命令だ。従おう。」 重盛が清盛の屋敷へ入ると知盛が 駆け寄って来ました。 知盛「あ、異母兄上(あにうえ)… 紬が…紬が…。」 重盛「もしや連れ去られたのでは?」 清盛「その可能性は多いにあるな。」 一体知盛の愛妻である紬は どこにいるのでしょうか?そして 誰に連れ去られたのでしょうか?
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