第11章 鹿ヶ谷の陰謀。

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清盛「成経、師経、師高、 西光が謀反?」 行綱「はい、鹿ヶ谷にて陰謀を企んで おります。あと、知盛様の御継室は 鹿ヶ谷の成経の別宅におりましたぞ。」 知盛「師経、絶対に許さん!」 清盛「行綱殿、大儀であった。 明日我らは院らの目を掻い潜るため 延暦寺に向けて出立する振りをしていたが明日、鹿ヶ谷へ向かう。知盛、紬を必ずや救い出せ。」 知盛「無論にございまする。」 さて知盛らは、 明日に備えて休む事になりました。 太郎「父上、義母君はいつお戻りに なられるのでございまするか?」 知盛「明日、必ずや連れ戻す。 だから案じずとも良い。」 その言葉を聞き知章と高千穂は 安堵したようでぐっすりと 眠ってしまいました。 知盛『必ずや取り戻す!』 知盛は可愛い子らを起こさぬよう 心の中で決意を新たにしました。 西暦1177年06月01日。 まさか平家が自分らを攻めに来るなど 夢にも思ってない鹿ヶ谷の別宅にいる 人達は徹夜で呑んでしまいフラフラしておりました。 師経「紬…。」 師高「愚か者!私は紬ではない!」 こんなにフラフラして大事はないのかと思ってしまいますが何せ事が露見したなんて全く知る由もないので仕方ありません…。 さて朝早くから屋敷を出た平氏勢は 知盛が早く紬を取り戻そうと 気ばかり焦っておりました。 知盛「早く紬を取り戻しましょう、 早く!早く!」 清盛「気持ちは分かるが焦るでない 知盛。」 知盛「焦りますよ、紬があんな男に 口づけをされ続けているなんて考えただけで虫唾が走ります。」 虫唾が走る。《むしずがはしる》… 非常に不快な状態を指します。 なので少しだけ嫌とかいう時には 使いません。 知盛の場合、最愛の継室が他の男に それも人妻に横恋慕した上にそれを阻止しようとしたお寺に火を放ち流罪になるような災厄を招く男に口づけをされ続けているのです。これは虫唾が走ります。 清盛「知盛、紬を保護したら2発 アイツをぶん殴ってやれ!お前の分と 紬の分だ。」 清盛も実は腸が煮えくり返っていました。 重盛「あれは残酷過ぎる、俺も院の近臣とはいえ力を貸そう。紬は大切な義妹だ。」 平家の軍勢は馬を飛ばし鹿ヶ谷に着いたのは午の刻(現在の正午)でした。 成親「そろそろ昼食の刻限ですな。」 ポンッポンッ 成親が2回両手を叩くと 侍女ではなく… 清盛「お前達、我が一族の者が連れ去られ屈辱を味わったと言うことは万死に値する罪なり!かかれ!」 清盛を筆頭にたくさんの平家の軍勢が 別宅に入ってきました。 師経「ならん!紬は私のものだ。 紬に口づけをせねば落ち着かぬ!」 師経が紬の元へ軍勢に流されながらも 行こうとすると…その瞬間、 ドカッ! 知盛「僕の妻に それ以上汚い手で触れるな!」 知盛により思いっきりみぞおちに 怒りの鉄拳制裁を喰らい踞って しまいました。 師経「うっ…。」 西光「師経、師経!おのれ! 我が子に何をする?」 西光が痛さのあまりその場に踞る 師経を抱きしめ知盛を憎々しげに 睨みつけると… 清盛「我が子が可愛いなら悪いことを した時くらい叱ったらどうだ?」 清盛が知盛の代わりに答えました。 何故ならば知盛は…。 知盛「紬、紬、助けに来たんだ。 紬、紬、苦しみからすぐに解放 してやれなくて申し訳ない。幾らでも 謝るからだから…いつものように笑ってくれ。」 人形のようになってしまった紬の肩を 揺すり必死に懇願していました。 すると… 奇跡が起こりました。 紬「知盛さん?」 紬が知盛の名を呼び 力いっぱい抱きしめました。 これには知盛も 安堵の表情を浮かべて、 知盛「良かった、紬 と、いう訳で消毒だ。」 知盛も紬の腕の中から手を伸ばし 紬を抱きしめ返しました。 そして…。 師経に見せつけるかのように 2人は口づけを交わしました。 紬「知盛さん、ようやく貴方に 触れられるのね。」 紬は満足そうに微笑んで知盛も 微笑み返しました。 清盛「熱いのは結構なんだが 戦の真っ最中だよ?」 清盛が何とも言えない複雑そうな目で 2人を見つめながら言うと…。 重盛「良いではありませんか?油断している罪人達を捕らえるなど簡単です。」 重盛が冷静に 罪人達を捕らえていました。 師経「刑死になるならせめて最期に 紬に口づけをさせて下さい。」 ドカッ! 師経はまた知盛から怒りの鉄拳制裁を 喰らいあまりの痛みにまたもやその場で踞ってしまいました。 清盛「本当に懲りないね。物覚えの悪さならうちの宗盛に負けてないよ。」 宗盛「こんな下衆と 一緒にしないで下さいよ。」 先日のこと、宗盛は高倉帝の愛猫である唐猫の三毛ちゃんと中宮徳子の愛猫である寄宮(よるのみや)を間違え双方の飼い主から苦言を呈されていました。 しかし… 何回知盛達が言い聞かせても、 「三毛猫の唐ちゃん」と言い続けたり 寄宮は黒猫で三毛は白猫と言っても 全く分かっていない。 物覚えが悪いのか はたまた覚える気がないのか どちらにしても宮中で殿上人として お仕えするのならば… 清盛「致命的だよ? その物覚えの悪さ。」 西光(さいこう)…還俗名 藤原 師光 平家打倒の企てを謀った上に、 次男である師経による紬連れ去りを 止めなかった罪で刑死。 西光「清盛!許さんぞ!この恨み、 晴らさでおくべきか!(現代語訳、この恨みを晴らさずにはいられない。いつか晴らしてやるという意味である。)」 藤原 師経(ふじわらのもろつね) 平家打倒の企てを謀り清盛最愛の息子である知盛が溺愛する継室・紬を連れ去り苦しめた罪により刑死。 師経「紬に口づけをさせてくれ!」 知盛「最期に もう1発喰らいたいか!」 師経は紬への狂愛により 身を滅ぼしてしまいました。 藤原 成経(ふじわらのなりつね) 義兄だった信頼(姉の夫)に誑かされて 平治の乱では謀反の片棒を担ぐも義弟 重盛により命を助けられました。 しかし今回は同じく義弟である西光… 後白河院がまだ西光が出家しておらず 還俗名・師光を名乗っている頃、 いたく気に入り側近くにおきたいというものの師光は身分がかなり低いため成経の父親である藤原家成の養子となりました。 成経は義兄や義弟に振り回され危ない橋を渡らされるもののそれを重盛がいつも助け船を出し助けておりました。 ところが今回は…。 清盛「ならん!紬の苦しみを思えば 止めなかったあの者の罪は重い。」 重盛はそれ以上 何も言えませんでした。 確かに紬からしたら誰でも良いから 助けて下さいという状態でしたから 見て見ぬ振りをした成経の罪も軽いものではありません。 藤原 成経…流罪、 後に流罪地にて暗殺。 後白河院の処断は…。 重盛「それだけは…それだけは… 何とぞお辞め下さりませ。」 清盛「あの男だけは許せん!」 重盛「ならば… 私を暗殺して下さりませ。」 清盛「そなた、なんと申した?」 重盛は大きな瞳にたくさん涙を溜めて 清盛に対して懇願しました。 重盛「父を助けたいと願えば院に報いる事が出来ず院をお助けしたいと願えば父に報いる事が叶いませぬ。ならば…ならば…いっそのこと私の命を奪って下さりませ。それならばどちらに対しても報いる事が出来ませぬ。」 清盛は重盛の懇願により院を幽閉する 事を辞めました。
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