第1章 寂しさを埋めるため…

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こうして嶺子は嬉しそうですが、 時忠は渋々元の鞘へと収まりました。 弓弦は理不尽にも産んだばかりの子と 別れてしまいました。 弓弦「ごめんなさい、聖、時忠様。」 そして聖は父母と引き離されて 祖父である時信の元で養育される事になったのでございます。 それから時はあっという間に経ち 16歳となった聖は見目麗しき 女子へと成長したのでございます。 そのため、聖の噂を聞きつけた 数多の殿方よりたくさんの恋文が 毎日のように届きます。 しかし…色恋沙汰には、 興味がないようで聖はそのたくさん 届く恋文に見向きもしません。 何故なら… 聖は心の中で父と母… それに義母に対する憎悪をメラメラと燃やし続けながら生きてきたから。 但し… そんな聖にも癒やしがありました。   それは… 知盛「お祖父様、兄上が蹴鞠の指導を 受けたいらしいので連れて来ました。」 聖とは従弟の関係となるのですが、 聖より2歳年下で兄の宗盛を連れて来る面倒見の良い弟・知盛でした。 宗盛「蹴鞠など出来ずとも構わぬ…」 蹴鞠が下手なのに自己顕示欲が極めて高い宗盛は知盛の後ろで拗ねており、 時信「宗盛、殿上人の基本は蹴鞠にあり。蹴鞠が出来なければ嫁の来てなどないと心得よ。」 時信はそんな孫に対して、 あくまでも厳しく接するのでした。 すると… 宗盛「もう既に女官の殆どから嫌われておりまする…」 宗盛は泣きそうになりながら、 昨日の事を話し始めました。 藤「あら?また宗盛はんや。平家の総本家でありながら蹴鞠もお出来になられへんお方だなんて殿上人の資格を返上なさったらよろしおすな。」 藤から話を聞かされた他の女官達も 宗盛を馬鹿にしていたようで… その話を聞いた清盛は、 清盛「宗盛、そなたの祖父である時信殿を頼りなさい。あの方は蹴鞠の師範代であられる。」 時信を推挙したのですが、 前述した通り宗盛は蹴鞠が大嫌い。 宗盛「私は腹が痛くて動けなくなる予定ですので蹴鞠など出来ませぬ…」 その様はまるで幼子のよう、 知盛「兄上はお幾つですか? それではまるで幼子のようですよ?」 こうして… 宗盛「知盛、私は腹が痛くなる予定があるので蹴鞠など出来ぬと先程言うたではないか?」 宗盛はまるで駄々っ子のように 駄々を捏ねているので… 面倒見の良い弟である知盛があきれ果てながら強制的に時信の館へと連れて行く事が日常茶飯事でございました。 時信「宗盛、蹴鞠とは…。」 19歳になった宗盛ですが蹴鞠も出来ない殿上人になど女性は見向きもせず、 既に結婚適齢期などとうに過ぎている 宗盛は焦りきっておりました。 宗盛「お祖父様、 私はいつ結婚出来ますか?」 しかし… 時は平安時代の末期とは言えど 貴族たるもの祝言を挙げたいならば 蹴鞠は必須でございます。 だからこそ宗盛は、 厳格な祖父である時信から 「そなた、その状態で一体 誰と祝言を挙げるつもりだ!」 怒髪天を衝かれてしまったので、 宗盛は自分が匙を投げかけていた事を綺麗さっぱり忘れ時信に対して 平謝りをしました。 宗盛「分かりました、お祖父様。 なのでそんなに怒らないで下さい。」 宗盛が謝ったところで時信の怒りは、 簡単に収まるはずもなく 時信「そなたが蹴鞠の稽古を真面目にやらず蹴鞠を馬鹿にするからだ。」 宗盛は蹴鞠を馬鹿にした罰も兼ねて 時信からの厳しすぎる蹴鞠の猛特訓を受ける事になってしまいました。 そんな兄を横目に14歳の知盛は、 当たり前だと言わんばかりに聖の隣に 座り祖父と兄を見つめていました。 知盛「聖、君の隣は落ち着くね?」 真っ直ぐな知盛からの言葉は、 頑なな聖の心を少しだけ解しました。 聖「そうかな?」 戸惑いながらも聖が答えると 知盛は嬉しそうに微笑みながら… 知盛「そうだよ?なんか落ち着く。」 その時、 時信の猛特訓にへき易していた宗盛が 聖と知盛の横へ寄って来ました。 宗盛「知盛! なんでお前だけ好かれるんだ? 聖、私は…どう?」 時信「蹴鞠も出来ない殿上人が 女性に声を掛けるんじゃない!」 宗盛「だって… 私の方が聖より歳上だよ? 知盛は聖よりも歳下じゃないか?」 確かに幼い頃から聖と知盛はとても仲が良く宗盛はいつも2人の仲に嫉妬をしていました。 時信「歳で好きになったりはせん。 やはり人柄とか…であろう。」 それを聞いた宗盛は、 祖父に抗議しました。 宗盛「人柄なら私! 私…!わ!た!し!」 時信「や、か、ま、し、い!!知盛は蹴鞠で失敗した事など全くないがそなたは失敗し過ぎて公家達から白い目で見られているではないか?そんな男に大事な孫をやれるか!」 時信は父と母から引き離されて育った聖の事を殊の外可愛がっていました。 だからこそ… 殿上人なら出来て当然の蹴鞠も出来ないような人間に聖を渡したくはない…と言うのが時信の心理でした。   しかし…時信の聖だけを溺愛する扱いに対して宗盛はいつも不服そうな顔をしていました。 宗盛「お祖父様…。私もお祖父様の孫なのに何故そのような差別をなさるのです?」 時信「宗盛、 足がお留守になっておる。」 時信は宗盛に対して いつも厳しく接していました。 それは… 清盛の嫡男である平重盛と次男である基盛に何かがあった時に家を継ぐべき存在となるのは宗盛だからです…。 時信「時子の息子として自らの行いを律しなければならない存在なのがそなたであるぞ。」 時信に諭された宗盛でしたが… 厳しい祖父には内緒である点数稼ぎをしていたため内心少しだけ余裕がありました。  宗盛『私は集めている宝飾品を色んな女官達に配っているのでいつかは誰かが嫁に来てくれるはずだ。』 しかし… 実はその点数稼ぎですが… 時信「最近のそなたときたら宝飾品ばかり女官達に贈っているらしいではないか?時子があきれ果てておったぞ。もしかして…点数を稼いでおけば蹴鞠など出来なくても誰かが嫁いでくれるだろうと思っておるのであろう?」 厳格な祖父である時信の耳には 既に届いていたようでした…。 まさか知られてはないだろうと 変な確信のあった宗盛は、 宗盛「そ、そ、そんなわけないじゃないですか?たまたまたまですよ。」 うっかりしどろもどろな答えを告げてしまいました。 これでは本人が考えている事など時信じゃなくても筒抜けとなります。 時信「宗盛!」 はい、宗盛は時信から 思いきり叱られてしまいました。 知盛「兄上も困ったものですね…」 知盛は聖の隣に座りながら ただ、苦笑いを浮かべておりました。  宗盛「知盛、助けよ…」 宗盛は知盛に救いを求めましたが 当の知盛は悲しげに顔を歪めると… 知盛「いま、助けると余計に話がややこしくなるので無理です。」 どうやら知盛は困った同母兄である宗盛の事を反面教師にしているようで…宗盛の求めには応じませんでした。 こうなれば最後の手段、 宗盛は大きな声で助けを求めたのですが誰しも宗盛を甘やかすべきではないと知っていたのか… 宗盛「誰か…お助け~!」 宗盛がどれだけ叫ぼうとも 助け船は出しませんでした。 宗盛の声に結局のところ、 反応したのは時信だけでした。 時信「真面目にせんか!」 しかし…   助け船と言うよりこれは小言で、 宗盛は余計に落ち込んだのでした。
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