第18章 平家の都落ちと規律。

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第18章 平家の都落ちと規律。

西暦1183年06月02日。 頼盛「総帥、 お呼びでございまするか?」 宗盛は維盛が倶利伽羅峠の戦いで敗れ 這う這うの体で戻った事を受けて叔父である平頼盛を呼び出しました。 頼盛は母親である池禅尼の名前を取り 池殿と呼ばれる事もあります…。 池禅尼は…頼朝の命の恩人ですが その子ども達は平家一門で… 維盛と同じくらい肩身が狭いのです… 宗盛が頼盛を呼びつけたのは… 他でもなく命懸けの防衛戦のため… 宗盛「叔父上にお頼みしたい事がございまする。維盛が倶利伽羅峠の戦いで敗れたため叔父上には京の生命線とも呼ばれる程重要な山科の防衛をお子である為盛と共に引き受けて頂きたいのでございます。」 平家がここまで怯えるのには… 理由がありました。 それは… 義仲軍は規律が全く出来てないどころか無礼講のようなところが多々あり…地元の木曽近くの村でも大変な事を度々しでかしていたのでございます。 好みの女人を見つけると夫がいようがいまいが連れ去り無理矢理妻にしてしまったり盗みを働いたりと…。 なので…。 「山賊と変わらん。」と悪口を言われてしまう程人気のない義仲軍が都に来てしまえば…無論大変な事になります。 頼盛は捨て駒のような扱いである事を知りながらも宗盛からのお願いに答える決心をしました…。 頼盛「総帥のため、一族のため、都に住まう人々のために山科は命に懸けても守りぬく事をお約束致します。」 宗盛「頼りにしております。」 宗盛はそんなことを言うものの それはただの口だけでございました。 宗盛『池殿の母親がきちんとあの時…頼朝を成敗しておればこんな事にはならなんだのに…』 池禅尼は清盛の養母なので、 もうこの世にはおりませんが… 宗盛は子である頼盛らも同じくらい憎んでおり本当は山科へ行かせれば顔を見ずに済むと思っていました…。 頼盛は自らの邸宅「池殿」に戻ると、 息子である為盛に事態を説明。 為盛「左様でございまするか。」 平 為盛(たいらのためもり)…頼盛の息子で力が強くて正義感も強くて優しい人である。 朝子(あさこ)…役職名は八条院大納言局。頼盛の正室であり為盛らの母親である。 ※八条院大納言局は実名が不明です。 なので…本作では朝子という仮名です。※ 朝子「山科ですか…。遠いですね。 何かあらば誰を頼れば良いのかしら?」 一門には頼れない朝子の不安は 大きいのですが頼盛には秘策が ありました…。 それは… 頼盛「大事ない、もし何かあれば院に 助けを求めなさい。必ずやそなたの命 助けて下さるでしょう。」 院とは後白河院の事でございます。 朝子は八条院に仕えているため かなりの権力を持っていました。 そのため朝廷も朝子を無下にはしないだろうと頼盛は考え朝子に言葉を掛けました。 朝子は悲しげにうつ向きましたが 頼盛と為盛は後ろ髪を引かれながらも 山科防衛のため現地に向かいました。 それから1月が経った1183年07月。 義仲の軍勢は勢いそのままに京目指して行軍していました。まさに「破竹の勢い」。 なので…かくなる上は…。 宗盛「都落ちをするから 家族と財産を忘れてはならぬぞ。皆。」 京を棄てて西国に逃げ再起をはかる。 これが宗盛の決定…でしたが…。 宗盛「…、なんで!なぜ動かぬ!」 どこか頼りないこの総帥は動かない 牛車に唸っていました。 清宗「父上、積み込過ぎです。これでは牛車の牛も疲れのあまり参ります。」 清宗が宗盛の近くに駆け寄り苦言を呈しましたが宗盛は自らの目で見るまでは信じられないという大変困った性格なので牛を見に行きました。 …牛は…荷の重さに参っていました。… 二位尼「宗盛、何をしに行くのです? 都を落ちるのですよ?そんなにたくさんの荷を抱えては義仲に捕まりますよ。」 宗盛が良い歳なのに母親である二位尼に叱られているその頃、 維盛「小夜子、髙清とゆりを連れて逃げよ!」 維盛は正室である小夜子、嫡男である六代改め高清、それに長女であるゆりに別れを告げました。 小夜子「宗盛様は家族を忘れるなと仰せだったではありませんか?どうして私達を置き去りになさるのです?」 小夜子は…維盛の足にしがみつき共に行きたいと懇願しました。 小夜子はそれ程 維盛と離れたくなかったのです。 高清「僕が2人を護ります。だから 置き去りにしないで下さりませ。」 高清も目に涙を溜めながら 必死に懇願しましたが 維盛はただ首を振るばかりでした…。 ゆり「父上、行かないで下さりませ」 維盛「ゆり、 父もそなたらと離れたくはないが…。」 維盛は富士川の戦い、倶利伽羅峠の戦いと敗け続きでございますので平家の一門でもかなり肩身が狭いのでございます。 なので… 『一族に多大なる迷惑を掛けた僕と行動を共にすれば高清達に迷惑が掛かってしまう。』 心の中ではそんな言葉が真ん中にありそれで維盛は気づくのでございます。 『大切なものを守るのには、 優しさだけでなく強さも必要だ。』と…。 もしも知盛のように強ければ大切なものを手離さずに済んだのに…と。 「たられば」の話をしても 待っている結末は変わりません。 なので維盛は腰を降ろし自らの足にしがみつき行かせまいとする小夜の手に自らの手を重ねました。 維盛「小夜子、辛いのは僕も同じ。 それに君が死ぬ事など僕には自らの死よりも堪えられない事柄だから…僕が死んだという報せが来たなら遠慮なく再嫁して欲しい。決して死ぬ事は許さない。」 優しい声色で告げた言葉は誰よりも維盛を愛する小夜子にとっては我が身を貫かれるよりも辛くて残酷…だけど誰よりも小夜子を思う維盛の心だけは何とか伝わったようで、 小夜子「私も母親にございます。例えこの身は維盛様と離れていても気持ちは寄り添っていると信じております。どなたに嫁ごうと私が心よりお慕いしている方は貴方1人。それだけは維盛様にいくら言われても変わりませぬ。」 小夜子と離れて独りで一門に付き従うため大切な妻の温もりを覚えていたいと思い維盛は小夜子を抱きしめました。 維盛「高清、ゆり、そなたらもおいで。」 維盛は高清とゆりも誘いましたが 高清は… 高清「僕は遠慮しておきます。 ゆり、行きなさい。」 10歳になっているため恥ずかしいようで妹のゆりに行かせました。 ちなみに元服するのにはまだ早いのですが維盛は自身が側にいる間に六代を大人にしたかったのでございます。 そんな髙清はともかく… ゆり「父上様~!」 ゆりは優しくて凛々しい父に懐いておりましたので兄に薦められるまでもなく後ろから維盛に飛びつきました。 維盛「ゆり、飛びつくのは禁止だ。」 維盛は優しく笑い小夜子も維盛の腕の中で微笑んでいました。 家族の時間はすぐ終わり維盛は皆が待つ場所へ移動して小夜子も子らを連れて住み慣れた屋敷を後にしました。
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