第18章 平家の都落ちと規律。

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頼盛らは八条院の所有している常盤殿に寝泊まりをしながら鎌倉殿(源 頼朝)に連絡を取っていました。 頼盛の母親である池禅尼は平治の乱後 頼朝が捕らえられると若くして亡くなった頼盛の同母兄である家盛の面影を頼朝に見出だし命を救ったのでございます。 つまり頼朝にとって頼盛は命の恩人を 母とする唯一の子どもでございます。 清盛に対しては幾ら憎んでも足りませんが頼盛に対しては決して無下にしないと命を助けられた際頼朝は固く心に誓いました。 なので… 頼朝は鎌倉にて頼盛から届いた文を見て感極まって泣き出してしまいました。 政子「どうなさったのです?頼朝様。」 初めて頼朝が泣いているのを見た政子が心配して声を掛けました。 頼朝「見よ、政子。これは…俺が12歳の時に命を救ってくれた池禅尼様のお子である頼盛殿からの文である。」 どうやら恩人の忘れ形見からの文に感極まって泣いていたのだと政子は安心しました。 しかし… 2枚目を見た頼朝は、 頼朝「何だと!許さん!」 いきなり激昂してしまいました。 本当に感情の起伏が激しく落ち着きのないこの方に付き合うのは大変でございます。 政子「今度はなんですか?」 頼朝「これを見てみろ。」 頼朝は政子に頼盛から届いた文を見せ そのあまりの内容に政子も驚愕しました。 政子「何ですって!」 その文の内容は、 「源 義仲、京にて乱暴狼藉を働くばかり也。妻を連れ去られた人多数。財産を盗まれた人も多数になります。しまいには…。」 西暦1183年08月14日。 頼盛からの文によるとこの日、 義仲は後白河院にある無茶苦茶なお願いをしたようでございます。 そのお願いとは、「北陸宮の即位」。 北陸宮(ほくりくのみや)とは…? 皆さんは、 あのお方を覚えておられますか? あのお方とは… 後白河院の第3子でありながら平家に皇子宣下すらも受けさせて貰えなかった悲運の王。 以仁王(もちひとおう)です。 西暦1180年、平重衡により完膚なきまでに叩きのめされた源 頼政と協力関係にあったため討ち死にする事になってしまったお方。 北陸宮はその以仁王の忘れ形見であり義仲と協力関係にありました。 なので… 後白河院が納得する訳がありません。 それに… これ以上義仲軍を図に乗らせては、 京が荒れ放題になってしまいます。 なので… 当然後白河院は激昂しました。 後白河院「そなたの思惑通りにはさせん!そなたらのせいで京に住まう皆が迷惑しておるではないか?」 治天の君としては、 当然の対応でございます。 しかし… 義仲は後白河院の弱味に付け入ろうとし、 義仲「八条院大納言は平 頼盛の正室。 未だに平家の一族がいるではないか。 まさか平家を匿っているのではないか?」 宮中を家捜しし始めました。 このような横暴な振る舞いはさすがに 許されるものではありません。 しかし… これでは頼盛達が見つかるのも 時間の問題でございました。 文には「鎌倉殿」の元へ 家族共々亡命したいと記されていました。 頼朝「もう間もなく 頼盛殿が着かれる頃であろうな。」 頼朝は命の恩人である池禅尼の忘れ形見である頼盛に久方ぶりに逢える為に大喜びでございました。 政子「頼朝様、お喜びになられるのは結構ですけど京を荒らしまくり源氏の評判を地へと叩き落としたあの男を倒さねばなりませぬ。」 政子から冷静に指摘され 我に還った頼朝。 ですが… 頼朝「幾ら義仲が京に住まう全ての人間に迷惑を掛けているとは言ってもな…。追討するには大義名分が必要だぞ。」 平家追討の場合は今は亡き以仁王からの令旨があるため追討出来るのですが… 義仲の場合は大義名分がないまま倒せば義仲の父親である義賢を暗殺し武蔵国を奪った頼朝の父親である義朝のように評価が下がってしまいます。 政子「それならば義経殿と範頼殿に軍勢をお与えになられ京へと向かわせたら如何ですか?そして院にお目通りを願うのです。さすれば院も義仲の横暴にはお困りのはずですから必ずや院宣をお出し頂けると思います。」 頼朝「確かに、義経と範頼をここへ。」 頼朝の家臣「はっ!お連れ致します。」 それからしばらく時が経過し、 異母弟の1人である範頼が頼朝の前へ 1人でやってきました。 源 範頼(みなもとののりより)…頼朝の異母弟だが可もなく不可もなく…良くも悪くも普通なので人気があまりない。 範頼「御用でございますか?」 頼朝「用がある故呼んだのだ。 私の家臣と義経は?」 源 義経(みなもとのよしつね)… 長身で容姿端麗。戦のセンスも抜群。 これには女が放っておくはずもなく… あっちこっちで義経争奪戦が勃発!するほど女性人気が高い。 範頼「そこら辺でまた女性に追いかけられているのではありませんか?」 すると…。 頼朝の家臣・一条頼綱 「義経様~!京へ出陣して下され!」 義経「僕は舞妓である朋子と逢瀬の約束があるんです!」 女性ではなく頼朝の家臣に追いかけられていました。 頼朝「こんの…大馬鹿!そなたと朋子の逢瀬よりも国の危機を先に対処せんか!」 朋子(ともこ)…静の同期で舞妓。 義経は舞妓が大好きなので愛妾のほとんどが舞妓である。 義経「分かったよ、 わ・か・り・ま・し・た!」 頼朝「義経、無礼だぞ!」 義経「はいはい、行けば良いんでしょ?い・け・ば!」 とても渋々な態度の 義経に範頼はおろおろ。 範頼「あまり異母兄上様に逆らうでない。参るぞ!」 範頼に無理矢理連れて行かれた義経はやはり不機嫌でした。 何故なら…。 義経「だって…行ってもすぐ戦にならないでしょ?僕は戦をするためと女性を愛するために産まれてきたのだから…。」 範頼「…そんな事をモテない俺に言うな。」 範頼の女性遍歴はかなり地味でした。 正室・安達 盛長の娘・詠子(えいこ)。 義経「詠子様は地味ですもんね。」 義経からの嫌味に範頼は怒り心頭。 範頼「例え異母弟であろうとも詠子の 悪口は許さない。あいつは俺の光だ。」 範頼はそれなりにモテる頼朝と、 最大級にモテる義経に囲まれているため以前からずっと悩んでいました。 なので祝言を挙げた夜に妻となった詠子に思いきって尋ねてみました。 範頼「俺はどうしてモテない?」 詠子「私はそんな範頼様が好きですよ?」 範頼はその言葉を聞き怒りを露にしました。 範頼「それは嫌味か?」 詠子は首を横に振りました。 詠子「いいえ、貴方様の魅力は私しか知らないと言う事実がとても嬉しいのです。」 範頼「俺の魅力とはなんだ?」 詠子「真面目で穏やかなところです。 それに笑うとえくぼが出るところ…と。」 詠子がたくさん範頼の良いところばかり口にするので範頼はさすがに照れて真っ赤になってしまいました。 詠子「範頼様は私だけの大切な方です。誰にもお渡ししたくはありませんわ。」 範頼「これから先ずっと俺は詠子だけの夫でいるよ。不思議だな、あんなにモテなくて悩んでいたのに…詠子さえいればそれで良い。今はそう思っているよ。」 義経「はいはい、異母兄上、 口に出てましたよ、壮大な惚気話が…。もう…さっさと行きますよ、京の女性は奥ゆかしいらしいですからね。」 さっきまで愛妾である朋子に逢えずふて腐れていたのに早くも京にいる女性の事を思い描いておりました。
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