第2章 婚約内定

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第2章 婚約内定

知盛「兄上、何を落ち込まれているのですか?いつも楽天家な兄上ですので…らしくないですね。」 宗盛「知盛、私に喧嘩を売っているのか?そもそも…」 時信「やめんか、2人とも!」 知盛と宗盛が何やらああじゃこうじゃ言っているのを時信が懸命に止めているまさにその頃、 紅「姫様、 お客様がいらっしゃいました。」 時信に仕えている紅に連れられ 聖の元を尋ねてきた者がいました。 それは… 時実(ときざね)異母姉上(あねうえ)…何をなさっているのです?父上が手習いの先生に教えを乞いなさいとの仰せです。」 平 時実(たいらのときざね)…時忠と嶺子の間に産まれた子どもである。 時忠にとっては嫡男となるがちなみに年齢は聖の2歳下で知盛とは同い年。 聖「手習い…手習い…ってこんな時だけ父親面するんだから…!時実も時実よ。どうしてあんな自己満足男に協力するのよ?」 時忠という男は困ったもので… 普段は時信に聖を預けているというのに良い手習いの師匠を見つける度、 時実に時信の屋敷までの道案内をさせ 無理矢理聖に手習いをさせようとする 自己満足な父親でございました。 時実「父上はこうするより異母姉上に対して愛情を示す事が出来ないのです。母に気を使ってばかりの人ですから…」 時実は父親である時忠の事を何とか庇おうとするのですが…これこそただでさえ聖の中で憎悪が渦巻いているというのに…それを強めてしまう最悪の結果を招いてしまうという事を学ばない父子(おやこ)でございました。 しかし…今回の師匠は、 なかなかの堅物でございまして… 師匠「聖様、お父上様に対してそのような不遜な発言はなりませぬ。それから結婚適齢期の姫が殿方の近くにいてはなりませぬ。」 聖に対して切々とお説教するのですが 聖はずっと幼い頃より知盛の事が大好きでしたので決して側から離れようとしませんでした。 それどころか… 聖「幼い頃から知盛様の隣が私の定位置と決まっておりますので絶対に離れません。」 はっきりと言い切ってしまいました。 すると… 聖の想いを聞いた知盛もなんと 同じ気持ちだったようで… 知盛「僕も聖の隣が1番落ち着きますし兄上の為にもなりますから。」 どうやら知盛が嫌がる宗盛を連れ 時信の屋敷を尋ねる理由は… 宗盛「聖に逢うため、 私をダシに使うとは…! 知盛!」 知盛「兄上をダシに使っても 旨くありませぬ。」 聖と知盛はいつの間にやら相思相愛となっていたようでした。 それはそれで幸せな事なのですが、 ダシに使われた本人からすると… とても不服なようで… 宗盛「ずるいぞ!私も女子からチヤホヤされたいのだ…。例えば私の定位置は宗盛様のお隣ですとか言われたいのに…。」 不満げに呟く宗盛に対して知盛は 心底困り果てた顔をしていました。 しかし… 全く女官にモテないどころか 宝飾品を山のように渡さなければ 話すらして貰えないモテない男代表 宗盛は弟ばかりがモテる事に もの凄い不満を感じたようで… 宗盛「私も宝飾品など渡さずとも お姉ちゃん達から声を掛けて欲しい。」 きゃあきゃあと蹴鞠の稽古など そっちのけで大騒ぎしておりました。 そのため、 時信「やかましい!そなたの隣は私の定位置じゃ!蹴鞠!蹴鞠!蹴鞠の稽古じゃ!これが上達しなければそなたがモテる事はまずない。あり得ない!」 時信は気がそぞろな宗盛の耳元で これでもかと言うくらい叫び倒し… 宗盛「耳が…お祖父様、耳が…」 宗盛は激しい耳鳴りに襲われ しばらく耳を押さえながら その場に蹲るより他手段がありませんでした。 知盛「兄上なんかどっちでも良いけど これだけははっきりしなきゃね…」 その隙に知盛は聖の手を取ると、 その勢いのまま聖に求婚する事を決め 知盛「聖、僕の妻になって下さい。」 まだそれなりに早いような気もしますが平安時代は早婚なのでこの時代にしては知盛の求婚は遅い方でした。 聖「とても嬉しゅうございます。」 聖は満面の笑みを浮かべながら 差し伸べられた知盛の手を取り 2人の婚約は内定しました。 宗盛「知盛、私の事より求婚が先か?」 その時、まだ少しばかり耳鳴りのする耳を抑えながら宗盛が立ち上がり… 知盛に対して冷たい視線を向けました 同じ父母から産まれているにも関わらず知盛はモテまくるのに宗盛は全く… 不思議なくらいモテないのです。 しかし… 3人の祖父である時信は2人の孫が幸せそうにしているのを見て嬉しそうに微笑むばかりで寂しい思いをしているもう1人の孫など気にならないようで 無論、 後の2人はお互いの世界に入り込み… 知盛「聖、幸せにするよ。」 聖「知盛様、有難き幸せです。」 時実と聖に手習いを教える予定だった師匠は聖が知盛の許婚になった事を時忠達に知らせるため屋敷へと戻り… 結局、 誰からも見向きをされない宗盛は、 宗盛「…誰も私に興味、ないの?」 今にも泣き出しそうな声をしていましたがそんな宗盛の事など誰も興味がないようで… 悲しい沈黙が続き宗盛は、 寂しそうな顔をするしかありません。 宗盛「ぐすんっ…」 さて…そんな寂しい宗盛はさておき 時実と師範は時信の屋敷から20分くらい牛車に揺られ時忠の屋敷へ到着…。 嶺子「あの女が知盛様の許婚! 何かの間違いでしょ?時実。」 2人から報告を聞いた嶺子は、 信じがたい事実にとても驚愕しており…何度も時実に聖の婚約が内定した事を聞き返しておりました。 時実「間違いではありませぬ。 それに母を違えようとも姉は姉です。 それに母上はお夕様も私の異母姉ではありますのに異母姉上だけを目の敵にするのは何故です?」 お(おゆう)…時実と同じ年齢で2日先に産まれているだけであるが、 聖とは違い時実の異母姉としてきちんと扱われている。 ちなみに母は神社の神主の娘でせんというらしくお夕が産まれてすぐ側室として迎えられました。 嶺子「お夕は武運長久を祈願する神社の孫娘だから邪険にはしないわ。貴方達の助けになるのだから…。」 なんと… 嶺子の基準は時忠と時実の助けになるかどうかのみでございました。 時忠「だから…せんを寵愛せよなどと私に命令したのか?弓弦への扱いは非道であるとしか言いようがないのに…」 そんな困った正室をあきれ果てたような顔で見ながら時忠は聖の事を考えていました。 時忠「嶺子、知盛殿と婚約が内定したなら聖をここへ呼び寄せ行儀見習いをさせたいのだが異存あるまいな?」 時忠は弓弦を追い出した嶺子の事をとても憎んでいたのと弓弦から頼まれた聖の世話がようやく出来る機会だと… 心の中で喜んでおりました。   但し… 正室である嶺子は時忠と時実の為になる事ならきちんとしますが… 嶺子「何ですって?あの女狐(めぎつね)の娘を呼ぶですって?」 白拍子を下品な者だと蔑んでいる嶺子が聖を自らの屋敷へ呼ぶ事を是とするはずなどなく… 挙げ句の果てに大切な娘を女狐の娘などと揶揄された時忠は激しい怒りに身を任せたのでございます。   バシン!! 次の瞬間、嶺子の右頬に 鈍い痛みが走りました。 勿論嶺子の頬を叩いたのは… 夫である時忠でございました。 嶺子「何するのよ?」 嶺子は叩かれた右の頬を押さえながら 時忠の事を激しく睨みました。 時忠「聖は我が子だ。 それに弓弦は女狐などではない。 女狐は子を産んだばかりの弓弦を 追い出したそなたの事である!」 弓弦と聖を護れなかった事を心の中で ずっと悔やんでいた時忠は初めて嶺子の横暴すぎる行いを諫めたのでした。 時実「お見事です、父上。」 嶺子「な、なによ? 時実まで私に対して無礼でしょ?」 嶺子は精一杯抗議をしましたが、 時忠と時実は相手にしませんでした。 時忠「さて聖を迎えに行くとするか?時実」  時実「はい、父上。」 嶺子の言葉などどこ吹く風と言わんばかりに時忠と時実は牛車に乗り時信の屋敷へと向かいました。 そこにいたのは産まれた時から 逢いたくて仕方なかったけれど 嶺子に遠慮して逢わずにいた 弓弦の面影を宿した成長した聖が… おりました。 聖「嫌です。」 しかし… 家族の事を何よりも怨んでいる 聖からすれば時忠など最も許せない存在なのに血は争えないのか… 時忠「何も口にしておらぬのに… 適当に答えては父の立つ瀬がないぞ。」 時忠が言葉を口にする前から 何が言いたいのか理解しているようで 極めて不服そうな顔をしていました。 時信「知盛と婚約するに辺り 生家へ戻りきちんとした仕度をして 嫁がなければならぬ…。聖だけでなく皆、親元から嫁いでいるのだぞ?」 聖「お祖父様には大変お世話になっておりますから仕方ありませんね。」   幼い頃より世話をしてくれた時信から 諭された聖は仕方なく頷きました。 時忠「聖、よく決心してくれた。」   時実「異母姉上、これからはこの時実が異母姉上をお助けしたいと存じます。」 こうして聖は時忠の屋敷にて生活 する事となりましたので早速3人で 一緒に時忠の屋敷へと帰る事になりましたがこれこそ聖の悲劇が始まったきっかけとなったのでございます。 しかし… 嶺子「あんた、なにしてんの? こんな所にいないで!」 聖の母親である弓弦を心底嫌っている 嶺子からすると弓弦に似ている聖など 見るだけで寒気がする程でした…。 なので… あれこれ理由をつけては聖に対して ああでもない、こうでもないと嫌味のオンパレードを口にしてしまうので… 時実「母上…。 どうしてそれ程までに異母姉上を 忌み嫌われるのでございますか?」 実子である時実までも聖を毛嫌いする嶺子に対して苦言を呈したのでした。 嶺子「時実までもあの女の味方なの?」  
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