第19章 孤立無援な義仲の死

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西暦1184年06月01日。鎌倉。 頼朝「うーん、どうするか…?」 頼朝は妙に悩んでいました。 北条 義時(ほうじょう よしとき)…頼朝の正室である政子の弟で義兄である頼朝の良き相談相手でもある。 義時「どうなさいました?義兄上。」 義時が話し掛けると頼朝は恐ろしき言葉を口にしました。 頼朝「義仲の遺児である義高を生かしておくと鎌倉幕府存続に関わるから命を奪おうかと思ってな。」 義時はあまりの恐ろしき発言に 震えが止まりませんでした。 義時「…義高はまだ11歳ですし何より 義兄上の姫君にあられる大姫の許婚に ございませぬか?」 頼朝「そう…。 それで悩んでいるんだ。」 大姫(おおひめ)…頼朝の政子の間に産まれた可愛らしい姫君で今年6歳になります。 大姫はひと目見た時から優しくて凛々しい義高に心の底から惹かれていました。 なので…義高の居室に毎日、毎日訪れてはずっと側にいるくらいの文字通り「熱愛」状態です。 そんな義高が理不尽に 命を奪われたと知れば…。 頼朝「父上なんか大嫌い!と 言われるのは確実だぞ…。」 そう…大望の為ならば手段を選ばない頼朝も愛娘に嫌われる事だけは… 何より恐ろしくて耐えられないようですが義弟の義時には見破られていたようです。 義時「しかし…兄上、 それだけではないでしょう?」 確かに大姫に嫌われるのも恐いのですが頼朝が1番恐いのは…怒髪天を衝いた政子。 頼朝「言うな…。 本人が聞いたら激怒するぞ…。」 そこに偶然通り掛かり 話を聞いてしまった者がいました。 それは…大姫の侍女・さくら。 さくらは大姫の膳を義高の居室に持って行こうとしていた途中でした。 何故ならば大姫は産まれながらにして身体が弱いのですが義高と出逢ってからは1秒足りとも離れたくない様子でございました。 それに…昨日から大姫は暑さに負けてしまい「食欲がない。」と言っていましたので大好きな義高と食べるのならば食べるだろうと考えたからでございます。 義高「構いませぬ、 それで大姫様の食欲が回復するならば…。」 昨日の夕方、義高に相談したところ、 快諾して貰ったため意気揚々とさくらは御膳を運ぼうとしていましたが…。 その途中で何ともきな臭い話を 聞いてしまいました。 さくら『大姫様が父上なんか大嫌い!と言われる事ならただ1つ。まさか…。』 さくらが聞き耳を立てているとは知る由もない2人は更に話を続けてしまいました。 頼朝「義高の命を大姫が 気づいてない内に奪うか?」 義時「なりませぬ。 大姫様は毎朝義高の元へお行きになるのですよ?もしお知りになられたならば…。」 頼朝「…確実に政子の逆鱗に触れるな…。」 義時「姉上の逆鱗に触れてしまったらばそれこそ命の危機ですよ。」 頼朝「…義高の命を奪う事だけは大姫に知られてはならんな。」 さくらは顔面蒼白状態になり運ぼうとしていた御膳も置き去りに…急ぎ主である大姫の元に向かいました。 さくら「大姫様! 義高様のお命が危険でございます。」 大姫「どういうことなの?」 さくら「実は…!」 さくらから事情を聞いた大姫は、 義高の居室へと飛び込みました。 義高「どうなさいました?大姫。 あれ?御膳はどうなさいました? 食べなければ元気になれませんよ?」 優しく微笑む義高に大姫は込み上げる ものを感じてその胸に飛び込みました。 義高「どうしました? 本日は特に甘えん坊ですね?」 大姫「義高様…父上が… 貴方様のお命を狙っております。」 義高の腕の中で大姫は泣きながら 義高に迫っている命の危機を告げました。 義高「そうですか。私も義仲の息子です。かくなる上は自ら命を散らしましょう。」 大姫「嫌です!生きて下さりませ。 大姫は貴方様なしでは生きられませぬ。ですからどうか…どうか…お逃げ下さりませ。」 義高「大姫…。」 すると…義高の側近である海野幸氏(うんの ゆきうじ)も大姫の意見に賛成しました。 幸氏「そうです、義高様。 姫様の仰る通りですよ。 ここで義高様を喪えば我ら生きる望みを失ってしまいます。」 義高「幸氏…。」 幸氏と大姫に説得された義高は、 逃げる覚悟を決めました。 しかし…。 義高「この格好ではすぐバレますね。」 義高は自らの格好を見ると苦笑いしました。 するとさくらが… さくら「義高様、姫様の侍女達に紛れてお逃げ下さりませ。私達の着物を恐縮ではございますがお貸し致します。」 義高「しかし…女装とは…?」 義高はどうやら複雑なようでございました。 幸氏「義高様、体裁などよりも命の方が大切にござりまする。私の主は貴方様お1人。そして姫様の許婚も貴方様お1人でございます。ですから無事にお逃げ下さりませ。」 大姫「幸氏様の仰る通りです。 義高様は逃げて頂かないと私がとても困ります。」 大姫は義高の腕の中で… 小さな肩を震わせていました。 どうやら泣きそうになっているようです。 幸氏「これ以上…義高様を大切に思って頂いている姫様を悲しませてはなりませぬ。それと義高様が居ないと気づかれては全てが水の泡ですから義高様の代わりはこの私が勤める事に致します。」 幸氏は歳も背格好も義高にそっくりですので誤魔化しもある程度なら聞きます。 ですから早く支度をして逃げなければなりません。出来る限り…遠くへ…。 しかし… 大姫には不安もありました。 明日すらも分からないこの状態で、 果たして将来2人は結ばれるのだろうか?と 急いで支度をせねばならない義高ですが将来の事を聞くなら今しかありません。 なので大姫は 勇気を出して聞く事にしましたが…。 大姫「早く支度をなさって下さりませ。ただ…。」 やっぱり大姫には聞けませんでした。 不安が勝り言葉を詰まらせてしまったのでそれを察した義高が大姫の聞きたかった事の答えを教えてくれました。 義高「無事に木曽に到着した暁には さくら殿に連絡しますから共に木曽へ来てくだされ。お待ちしています。そして貴女が12歳になられたら祝言を挙げましょう。」 *12歳-現在での成人は18歳ですが以前は12歳で元服(現在でいうところの成人式)を行っていましたのでこの時代は12歳で1人前と見なされるのです。とても早いですね。- 幼い2人が交わした悲しい将来の約束。 しかし…これから義高と離れいつまた 再び逢えるか分からない状況ではこの約束だけが大姫の生きる望みでございました。 しかし… 時が経てばそれだけ見つかりやすく なってしまいます。 さくらは気の毒に思いながらも 声を掛けました。 さくら「大姫様、離れがたいのは分かりますがそろそろ支度をせねば間に合いませぬ。」 大姫も義高の腕の中で さくらの言葉に頷きました。 大姫「本当ならばずっとこうしていたいけれど仕方ありませんね。義高様、待っていますね。」 義高は大姫の言葉に頷くと そっと抱きしめていた大姫の身体を 離しました。 義高「では…用意を致しましょうか? さくら殿、宜しく頼みます。」
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