第20章 平家の意地、見せるは今ぞ。

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しかし「不可能」を「可能」にするのがこの男でございました。 義経「で、僕の意見を覆せるようなこと考えついたわけ?」 弁慶「…思いつきません。」 義経「だろうね…。で、継信は?」 継信「…。俺もです。」 義経「だと思った。」 その時平家の陣営では、 敦盛「どうかした?」 敦盛に話し掛けられていたのは、 知盛の侍女である沙友理(さゆり) 沙友理「いいえ、なんでもありません。」 侍女ではありますが沙友理は敦盛の事を好いておりました。それは敦盛も同じ気持ちでございましたが身分違いにより2人は結ばれる事など決してありません。 それでも…いいえ…だからこそ… 一緒に過ごす時間がたまらなく 愛おしくて離れがたいのでございます。 敦盛「沙友理、笛を吹いても良いかな?」 敦盛は笛の名手でいつでも笛を吹けるよう、常に横笛を携帯していました。 沙友理「はい、是非お聞きしたいです。」 ♪~♪~♪~。 それは背後にいる義経らにも届きました。 義経「平家は随分余裕みたいだな。 これこそ奇襲をするのにとても良い機会だ。」 継信、弁慶はやはり… 下を見て固まっておりました。 弁慶「馬の足が大変になりますよ?」 断崖絶壁を通らなくても済むように それらしい理由を述べてみたけれど…。 義経「そんな事は知らん、さっさと平家を倒して静や朋子の舞を堪能しなければならないしな。」 その言葉に継信の表情は曇りました。 沙都「あの人は…美しいものを…いいえ…。美しいものだけしか愛せないの?」 継信「お方様はそれで良いのですか?」 沙都「義経様は私には勿体ないくらいの方でございます。私のような普通の女にも情を下さるような方ですから…。」 継信「自分は…自分にとっては… お方様は普通の女ではありません!」 沙都「…。それ以上は仰らないで 下さりませ。」 継信は義経の正室である沙都に 片恋をしていました。 そんな沙都の苦悩や継信の切なさなど何も知らない義経は断崖絶壁を見ながらどのように攻めるか考え込んでいました。 一方こちらは範頼ですが… 範頼「義経はどうするつもりかな?」 義経は美形でかなりモテますが性格に かなりの難点があります。 興味がある舞妓にはガンガン想いを 告げるのに…興味がない人には冷酷だったり挙げ句には巴の時みたいに何も言ってないのに「興味ない発言」をしたりなど…。 まぁ…いざ戦となればきちんとした働きはしてくれるので… 範頼「やれば出来るんだ、義経も…。 母を違えているとはいえ弟だから 信頼しないとな。」 範頼は背後を突くであろう異母弟を信頼し戦を仕掛ける事にしました。 範頼「時は今ぞ!皆のもの、掛かれ!」 知盛「範頼軍か…!皆のもの!掛かれ!」 紬の隣にいたいのに戦の指揮を取る事になった知盛でしたが元々勇敢な性格なので 重衡「兄上、範頼がいたぞ!」 知盛「どこだ?奴を倒さば我らの勝利だ!」 重衡と共に範頼を囲む事に成功しました。 範頼「く…。これは厳しい…。」 重衡と知盛に囲まれたら範頼も… 万策尽きたかと思いましたが…。 すると馬に乗り知盛の嫡男である 知章が父達の元に向かって来ました。 知章「父上!義経です! 背後を突かれました!」 高所が恐怖な人達が2人もいる義経隊が何とか断崖絶壁を駆け降りて来ましたのでこれには敵が攻めて来ないと踏んで若い人間達を配置していた知盛の作戦は失敗に終わりました。 重衡「落ち着け、知章。そなたは崖側の大将である。隊の仲間を置き去りにしてはならぬ。戻るが良い。」 知章「はっ!失礼しました。叔父上。 自分も叔父上のように精進しなければ なりませんね。」 知章は崖側の持ち場へと戻ってしまい、残念ながらこれが2人の見た知章の最期の姿となってしまいました。 知盛「さあて範頼殿、どうなさる?」 何やら胸騒ぎがした知盛でしたが 戦の最中にそんな事を言う訳にも行かず目の前の相手に集中する事にしました。 範頼は義経と違い戦の才能はあまりなく取り柄は真面目な事だけでございます。 そんな範頼も囲まれて絶体絶命でしたが…。 義経「異母兄上、舞妓にしか興味ありませんでしたがこの女、好みです。」 紬「離して下さりませ。私は…。」 義経が無理矢理連れてきた女は知盛の最愛の人である紬でございました。 知盛「紬!くそ!紬を離せ!」 義経「お前も僕に逆らうのか?」 義経は不機嫌そうに言うと包みを知盛に投げました。その包みを見た知盛は…。 知盛「知章!おのれ…!」 知章は義経に連れ去られそうになっていた養母である紬を護ろうとして戦いを挑み命を落としてしまったのでございます。 紬「私の責任です、ごめんなさい。」 紬は知盛に対して 涙ながらに謝罪しましたが…。 知盛「紬の責任ではない、背面から攻めて来ぬと読み女や子ども達を配置した僕の責任だ。で、そろそろ僕の妻を帰して貰おうか?知章が命懸けで護ろうとした大切な妻を…。」 義経「なら…そなたが代わりに人質になるか?それなら帰そう。」 義経は黒い笑みを浮かべて交換条件として知盛の身柄を要求したのでございます。 範頼「義経、それはさすがに卑怯だ。」 真面目な範頼に作戦が卑怯だと批判された義経はまたもや不機嫌になりました。 義経「異母兄上から預かりし兵をいたずらに減らさぬための作戦にございます。卑怯だのなんだの言っていては戦に勝てませぬ。」 どうやら義経は義経なりに頼朝への気遣いとしてこの作戦を遂行したようでございます。 なので…知盛が、 知盛「分かったから紬を解放してくれ。僕以外の背に紬がしがみついているのを見るのは耐え難い。」 人質交換をするために、 紬の元へと歩み寄ろうとしましたが それを止めた人がおりました。 重衡「ならば…私が人質になるので義姉上を兄上の元へ帰してくれないか?」 それは… 一族の中で唯一独身を貫いている 重衡でございました。 知盛「重衡、何を言う?」 知盛が重衡に言葉の真意を尋ねると、 重衡は優しく笑いました。 重衡「私には伴侶がおりません。 しかし兄上には義姉上並びに幼い娘と息子がおるではありませんか?」 知盛「…しかし…。」 重衡「兄上、私はもう決めました。それに兄上が捕らえられたら知章に叱られます。自分が命と引き換えに養母殿を護ったのに…と。」 知盛「う…。」 重衡「それに宗盛兄上だけでは心許なく知盛兄上がお支え下さらぬと平家に未来はありませぬ。さあて、義経、義姉上を離して貰おうか?」 重衡は紬の元へ向かいました。 背中で『もうこれ以上何も言わないで。』と書きながら…。
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