第2章 婚約内定

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嶺子は時実にまで行いを注意され その怒りを全て聖で晴らすので… 聖もこんな悲しい扱いをされる屋敷など出て行きたいと思っていました…。 しかし… 身寄りのない女性と祝言を挙げる殿方などどこにもおりません。   聖「知盛様。」 愛しい知盛の事を考えると さすがに出ていく訳にもいかず… 我慢するより他に道などありません。 聖『知盛様…。知盛様…。 早く私をここから…この閉ざされた牢の如き屋敷から放って下さりませ。 貴方様の愛だけが私の頼りでございます。』 心の中で許婚である知盛に訴えましたが聖にとっては唯一の寄る辺となっていた知盛はいつまで経っても迎えに来てはくれませんでした。 いつしか聖の中で知盛は迎えに来ないかもしれないという思いが巡るようになったのでした…。 聖『知盛様まで私を裏切るの?』 聖は苦しくて苦しくて仕方ありませんでしたが初めから平家一門の中に聖の場所などありませんでした。 母の弓弦は嶺子の陰謀により、 正式な側室ではなく時忠の出来心で 聖を産んだという立ち位置になっていたのでございました。   それ故、 知盛らの母親である時子すらも 聖の事を冷たい瞳で見ていました。 だからこそ… そんな立ち位置にされた聖が こんな事をもし口に出してしまえば、 嶺子「お前なぞ本気で知盛様が相手に すると思っているの?」 継母(ままはは)である嶺子に、 また辛辣な言葉を言われてしまう事になってしまいますので… 聖『今は待つしかない… あの方を信じて待つしか…』 どんなに辛くても悲しくても 聖は知盛の事を信じて待つより 他の手段などありませんでした。 聖が知盛を想いながらも 悲嘆に暮れているまさにその頃…。 知盛も聖への想いを貫く為、 父親である清盛に対して聖を嫁として迎えたい旨を懇願しておりました。 知盛「聖を嫁に迎えたいのです。」 清盛「しかし…な。時忠の家ばかり 優遇しては…平家一門の釣り合いがな。」 清盛は表向きこのように言っておりましたが本心は違っておりました。 清盛『知盛の正妻にするならば、 きちんとした身分の者にしなければ 藤原氏などイマイチ信頼出来ぬし…』 平重盛の正妻は藤原成親の妹である経子なのですが成親は事ある事に清盛の事を裏切っておりました。   その事もあり清盛は平家一門と藤原氏以外で有力な豪族や貴族を味方にしたいと考えておりました。 清盛「すまないが聖は諦めてくれ。 そなたには縁談が山のように来ておる。そなた程の男なら従姉弟同士で祝言を挙げずとも良いではないか?」 実は知盛…他の殿上人達から… 「わが娘を嫁に…。」 「いやいや、わが娘こそ…。」 「いやいやいや、わが娘だ。」 縁談話がたっぷりと舞い込んでおり、 その様はまさに山のように…という表現がぴったりでございました。 清盛『何も時忠の娘に拘る必要もあるまい。他にも殿上人はたくさんおるからな。色んな一族と親しくなれば平家の基盤は更に磐石となろう。』 さすがは平家一門を束ねる総帥だけの事はありましてやはり考えるのは一門の繁栄のみでございました。 時子「時忠の出来心で産まれた子になど執着しなくても良いではありませんか?貴方なら宗盛とは違い引く手数多なのですから…」 時子は時忠の姉ではありますが、 嶺子同様白拍子の事を嫌っていた為 白拍子から産まれた聖の事も毛嫌いしておりました…。 知盛「恐れながら申し上げますが母上… 出生に関して聖には非がありませぬ。」 知盛も何とか母である時子だけでも味方にしたいと考えましたが… 時子「そんな話は聞きたくない!」 実は清盛にも気に入っている白拍子がおり側室にはしておらぬものの毎夜、 幸世御前の舞を見続けておりました。 時子「時忠も時忠なら殿も殿です、 白拍子など側室に迎えさせてなるものですか!」 知盛「母上…それは八つ当たりでは?」 時子の怒りが八つ当たりである事は 誰の目にも明らかではございますが… 時子「私と殿が認めなければ祝言など挙げる事は出来ませんよ!」 時子の言うとおりで、 平家の総帥である清盛と継室の時子に認めて貰わなければ幾ら当人同士が惹かれあっていても…結ばれる事などあり得ないのが現状でございました。 知盛『早く助けてあげたいのに… 僕が無力なばっかりに…ごめん。』 心の中ではそのように思っていますが…どうにも出来ない我が身が歯痒い 知盛でございました。 しかし… どうして知盛が聖の辛い生活事情を知っているのかと申しますと… 知盛「兄上、蹴鞠の稽古です!」 聖が幸せに暮らしているのか 案じていた知盛が宗盛の手習いを ダシにして時信の屋敷を訪れた時、 時実「知盛様、異母姉上は屋敷で我が母・嶺子より酷い扱いを受けており…毎日悲嘆に暮れています。」 聖の事を不憫に感じた異母弟・時実より事細かに聞き及んでいたからです。 それから1年経った 西暦1167年11月21日。 知盛は時がどれ程経とうとも 諦めようとしませんでした。 知盛「父上…。なにとぞ。」 清盛「ダメ!」 知盛は何度も何度も聖と祝言を挙げさせて欲しいと懇願しておりますが清盛は冷たく首を振り続けるだけでした。 清盛「宗盛ならばモテないので、 喜んで認めるところだったがな…」 宗盛「…。」 あれから…聖は17歳、知盛は15歳になっていましたが厳しい状況は簡単に変わりませんでした…。 宗盛「知盛は私と違い選び放題ではないか?羨ましい限りだ…」 宗盛は20歳になり早婚が一般的とされている平安時代としては遅すぎる年齢となりましたが相変わらず女性からは見向きもされないのでまだ独り身…。 宗盛の恋愛事情はさておき… 好きなものは好きなので… 知盛「兄上、結ばれぬのならば、 せめて聖に逢いとうございます。」 宗盛に内緒で逢わせて欲しいとお願いしてみたものの宗盛の立場も複雑で、 宗盛「そう言われても…な。 知盛と聖の仲が良いのは… 知ってはいるのだが…」 総帥に逆らうと後が恐いので、 良い返事は出来ませんでした…。 聖「許さない! 知盛様まで私を裏切るの?」 その頃総帥である清盛とその継室である時子の許可が出てないなど知る由もない聖は… 時忠の屋敷の隅にある自室にて 怨みを深めておりました。 知盛「せめて聖の美しき心が 醜くならぬよう側にいたいというのに…それすらも叶わないのか…。」 知盛は己の無力さに愕然としてしまい 宗盛はそんな弟の背中を優しく擦って いました。 宗盛「総帥も鬼ではないから いつか必ず分かってくれるはずだ。」 知盛「兄上…。」 知盛『聖、もう少し待ってて。 必ずや君を正室に迎えるから。』 惹かれあっていたはずの2人の間には いつの間にやら深き溝が出来ており、 聖『許さない! 知盛様はどうして私に対して 文すらも送っては下さらないの?』 知盛の聖に対する想いは日毎に強くなるのですがそれとは反対に聖の知盛に対する怨みは日毎に深くなりました。
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