第21章 愛しき人は…。

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第21章 愛しき人は…。

紬「私達の世は終わったのですね… ならば…平家の総大将の最愛として 潔く世を去る事に致しましょう。」 戦いは決してしまいましたので、 紬も意を決してまだ冷たい春の 海へ飛び込もうとしました。 すると… 滅多な事で怒らない知盛が 初めて紬に対して 怒りを露わにしました…。 知盛「愚か者!幼き娘や息子はどうする?紬、君は死んではならない。酷だが逃げてくれ。武藤家に逃げれば必ずや頼平殿が助けてくれるはずだ。」 知盛とて恋敵である頼平を頼るなど 心の中では嫌で嫌で仕方なかったのですが愛する家族を守るため維盛と似た判断を下したのでございます。 知盛は… 佐武郎と咲樂を紬に託すと 安徳帝が乗ってきた牛車に乗せ 家族を京へと帰しました。 紬「知盛さん…。」 紬は佐武郎と咲樂、侍女の亜樹と共に京へ戻る事になりました。 二位尼は宗盛から平家が敗けた事を聞くと安徳帝を抱いたまま海へと向かいました…。 安徳帝「どこに行くのです?」 まだ幼い安徳帝は海へと近づく 祖母の悲痛な表情を見つめながら 問い掛けました…。 すると… 二位尼は まだ幼き孫を安心させるように… 二位尼「海の底にも都はありますから 共に参りましょう。」 言い聞かせた二位尼は安徳帝と三種の神器を抱えて海へと飛び込みました。 教経(のりつね)…知盛達の従兄で怪力自慢な頼りになる武将だが大柄であるため…。 教経「義経、待て!待て!お前を抱えて海に飛び込んでやるわ!」 移動する速さと女性をその手にする速さならば右に出る者がいない義経に敵うはずなどなく… 義経「嫌だよ!綺麗なお姉ちゃんなら喜ぶけどあんたの道連れにされるのはゴメンだ!」 義経に逃げられた教経はもう無理だと諦めたようで船の錨を抱えながら源氏の一兵卒を2人道連れにしたまま海へと飛び込みました。 宗盛と清宗、それに清宗の異母弟である能宗…。この3人は鎧ではなく狩衣(かりぎぬ)…現在のスポーツウェアで戦をしていたため生地がとても軽く海に飛び込んだものの浮かんでしまった事により死にきれませんでした。 そして父子(おやこ)仲良く水泳していた所を3人とも捕まりました。 ちなみに安徳帝の母親である建礼門院は入水したところ源氏の兵達に助け出され一族を弔うため出家しました。 知盛「紬、佐武郎、千代丸、咲樂、お前達は生きてくれ!僕は見るべきものを全て見たから自害する。紬、願わくは来世こそ生涯君と添い遂げたい。慕っている、心から。」 知盛は3枚鎧を重ねるとまだ寒い3月の海へとその身を投じました。 こうして紬の一族は3月の海の中へと 沈んでしまいました。 それからしばらく時が経ち紬は無事に 幼き子らを連れて武藤家に帰って来ました。 頼平「紬、無事であったか?」 頼平は紬と子らを抱きしめ無事をただ喜んでいました。 西暦1185年06日24日。 頼平「紬、話があるんだが…。」 紬が武藤家に帰って来て しばらく経ったこの日の昼下がり、 頼平は紬に信じられない提案をしたのでございます。 頼平「私の妻にならぬか?」 元々頼平は紬を見初めていましたし、 知盛に気を遣い譲ったものの… その知盛ももう既にこの世にはいないので遠慮をする必要はもうどこにもないのですが… 紬「私の胸の中には知盛様がいますし兄上は兄上ではありませんか?」 紬は頼平からの言葉に 首を振りました。 すると… 頼平は紬の肩に両手を置いて 頼平「紬、私達は本当の兄弟ではないし頼朝殿が平家の落人狩りをし出したらそなた達は鎌倉に送られてしまうぞ。そなたらが無事な事が私の喜びだ。だから初めは名前だけで良いから私の妻になってくれ!」 頼平にここまで懇願されては紬も逆らえず2人は紬の傷が癒えるまで… 契約恋愛をする事になりました。 頼平「紬が踏ん切りつくまで待つから だから…生きて欲しい。私の側で…」
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