一章

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11話  庭園を歩いていると、懐かしい香りと共に、忘れかけていた記憶が脳裏に浮かぶ。  いつも肌身離さず身につけている、薔薇の形をしたブローチ。  皇后陛下から頂いた、最初で最後の贈り物。  あの方は、ハイデルトに踏み込むにはあまりにも優し過ぎた。  彼女と俺に血の繋がりは無かったが、俺を実の息子の様に扱ってくださった。 「必ず・・・あなたの望んでいた通りに・・・・・・」  俺の罪は許されない。  生き残りたいと生に執着する一方で、その事はよく理解している。  皇后陛下は俺に罪は無いと言ったが、それは間違っている。  きっと、死ぬまで俺はハイデルトに支配されて、最悪な結末を迎えるのだろう。 「兄さん、いつもそのブローチ握ってるね。そんなに大切な物なの?」 「・・・・・・」  一瞬、声をあげそうになった。  背後から声を掛けられる事は中々無いので、油断していた。  平静を装いながら振り返って、背後に立つ少年の首に手を掛ける。 「後ろから声を掛けるなと、何度言えば分かる?」 「兄さんが驚く姿が見たかったんだよ。ごめんなさい」  反省してる素振りは無いが、舌打ちをしながら投げ捨てる様に首から手を離す。  俺と同じ、黒い髪に赤い瞳を持つ少年。  カイルの弟の、第四皇子――ミカゲ・ハイデルトだ。
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