一章

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13 「チッ・・・面倒だな」  実の兄弟にする様な事では無いが、ここまでしなければ理解出来ないのが第四皇子だ。  軽く済ませれば、有り余った体力を人殺しの為に使うのは目に見えている。  いつも処置を受けた後、『あなたが俺をこうしたんですよ』とでも言わんばかりに、笑顔で会いに来るが、俺が我慢すれば済む話だ。  人が死ぬよりかはマシだろう。  第四皇子の俺に対する感情が、家族に向けられるものかは分からない。  だが、ここ数年、鍛錬に付き合うようになって、変に懐かれていることだけは分かった。  平静を装いはしたものの、  ブローチについて言及された時、俺が動揺したことに勘づかれたかもしれない。  弱点や隙を見せれば、一瞬で呑み込まれるのが皇城だ。  もっと気を引き締めなければ。  皇帝から呼び出しを受けると思っていたが、一晩過ぎても俺が呼ばれることは無かった。  今日はカディエゴ公爵が北部から謁見に来るので、皇族はみな正装を着る。  謁見の間に足を踏み込むと、玉座に座る父が視界に入る。  光の灯らない真っ赤な瞳と、金色の髪。  冷たい目で俺を見下ろす皇帝の前に跪き、頭を垂れる。 「帝国の偉大なる太陽にご挨拶申し上げます。カイル・ハイデルト、皇命に従い参りました」 「表を上げろ。貴様の挨拶に要する時間など無い」  皇帝の命に従い、玉座の横に着く。  俺と皇帝の間には、第一皇子にしてこの国の皇太子――アーク・ハイデルトが居た。  第三皇子である俺が、皇帝に全く関心を持たれていないことを再確認して、人当たりの良い笑みを浮かべる皇太子。 「君は余計なことを考えてはいけないよ。大丈夫、一生俺が面倒を見てあげるから」 「ありがとうございます」  俺の頬に手を添えて、耳元で囁く皇太子。  その言葉が意味する所は、  皇位を狙うなら容赦はしないが、大人しくしていれば殺さずに飼ってやる、だ。  言われなくても――皇帝の座になんて興味は無い。  こんな場所で一生を終える位なら、決死の覚悟で脱走でも試みた方がマシだ。
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