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「でも、結局、この公園に来ることしかできなかったけどね」
小六のときのことを思い出しているのか、実夏がクスクスと笑った。
「大したお金もないまま飛び出しただけだからな、とりあえずこの町からいちばん遠ざかってみるかなって」
「そうだね。佑がこの町でいちばん高い場所だって教えてくれた。私、そんなこと知らなくてさ、『佑はすごいこと知ってるんだなぁ』って驚いた記憶ある」
展望台よりも高いこの丘になっている場所こそが、この町でいちばん高い場所、父から教えてもらったことだった。
「地上から一番高いとこまで一回逃げたから、満足することにしたんだ、あの頃の私」
「半日にも満たない家出だったな」
実夏は頷き、「それでも私には大冒険だったよ」と言った。僕も頷く。
あの日、真夜中に家に帰ると僕はとんでもなく怒られた。実夏もそうだったらしいが、
「娘の家出原因が自分たちってわかって少し立て直ったとこもあったんだけど……もう今度こそダメみたい、ウチ」
実夏の父親は、大学の教授だ。そこで女子学生との関係で問題になってしまった。
子供である僕が知るぐらい近所では有名な話となり、好奇の目に晒された実夏は精神的に追い詰められていった。
両親は大喧嘩の末に、離婚の話が出て、実夏は耐えきれなくなり、家出を画策した。
あれから三年――、
「今度こそ、ウチは離婚するんだって。私はママについていくことになるから、マンションも出ることになった」
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