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「え」
驚いて声を出すと実夏は僕を見て頷く。
「いつ?」
「二学期の前に。もう引っ越し業者が見積もりしてる」
「学校は?」
「転校する。『中学3年のこの時期にぃ?』 って思ったけど……ママももう限界なんだよ。わかってあげなきゃなんだけど……私だって……私だってさぁ……」
その続きを実夏は言わなかった。その続きを聞いていないのに、私だって、ツライ、カナシイ、クルシイ、そんな形容詞じゃ足りない思いが伝わったような気がした。
「それで、家出を考えて、サボったのか……?」
「家出……考えなかったわけじゃないけどね」
実夏が大きく息を吐き出す。
「でもさ、家出したくたって、何のアテもない、お金もない、スマホだって親名義、全部捨ててどこかに行く度胸もない……、まだ親のスネかじるしかないでしょ」
実夏は僕から視線を外し、風で揺れる髪を左手で抑えながら町を見下ろした。たくさんの光が瞬いていた。
「今までもパパとママの喧嘩みるたびに全部捨てたくなってた。でも」
「でも?」
「でも、佑が頑張ってるから、私も頑張らなきゃなって思って、生きてるんだ」
オレが頑張ってる? 何のことだ? と僕は眉をひそめる。
「塾で居残り勉強頑張ってるでしょ?」
「それは成績が悪いからだよ」
僕が苦笑すると、実夏は「それに」と言葉を続けた。
「上級生しかベンチ入りできないバスケ部を改革して実力あれば一年から出れるようにしたり、ちゃんと結果も出してるよね。市大会優勝して、県大会も3位まで引っ張ったんでしょ?」
「な、なんでそんなこと」
「公立が私の噂を知るみたいにね、私立の私にも佑がいまどうしているかの噂も来るんだよ」
女子のネットワークは怖いなと僕は冷や汗を感じた。
「一緒に家出しようとした仲間が、いまはしっかり前を向いてる。じゃあ私もウジウジしてられないな、頑張らなきゃって思ってる」
僕はそんなすごい奴だったっけ、ちょっと恥ずかしい気持ちになった。
「ま、今日はキャパオーバーでサボっちゃったけどさ」
その言葉に実夏も僕も笑った。
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