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「県大会の試合、私、こっそり観に行ったんだよ」
「え、声かけてくれればよかったのに」
「そっちは、そっちの世界があるだろうからさぁ、変に声かけちゃダメかなって思ったんだよ」
「いやいやいや声かけろって」
「だって、周りの目が気になって私と話すの嫌なでしょー?」
さっきのドーナツショップのことを言っているらしい。たしかに女子と二人でいるところを見られたら――と思ったのは事実だけど。
「いや、それは時と場合によるし――」
「でも」
実夏が僕の言葉を遮る。
「佑が頑張っているなら私も頑張ろうって思える。うん、これからもね」
実夏が昔みたいな笑い方をした。
あの頃の夏が頭の中で蘇って消えていく。
「そんなんでいいなら、オレは二学期で成績を爆上げして、高校はバスケでインターハイだって出てやるよ」
「言ったね」
「言ったよ」
僕らはお互いに笑った。
「たまにつらくなったらこの場所を思い出すことにする。ここを思い出せば、また私は歩ける気がする」
「この景色忘れたら、スマホで写真送ってやるよ」
「忘れるわけないし。でも……たまに佑に連絡してもいいかな? 彼女とかいてメーワクだったらやめとくけど」
「いないな。彼女いない歴イコール年齢だけど、何か?」
「マジで? もう少し周り見ようよ。佑は小学校のときだって隠れ人気あったよ?」
「はぁ? なんで女子って、あとからそういこと言うんだよ」
「佑が鈍感すぎるだけじゃないかなぁ」
僕たちは時間も忘れて話していて、思っていたより遅い時間になってしまった。慌ててお互いの親に連絡をしてから帰ることにした。
それから二人で夜の坂道を下りてマンションへと帰った。
三年前と違って僕は母に怒られることはなく、実夏の母にひたすら謝られた。
「佑くん、私たちは引っ越してしまうけど、これからも娘をよろしくね」
そんなことを言われて僕はどんな表情をしたのか、実夏に「ニヤけすぎで気持ち悪っ」と突っ込まれた。
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