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この日は、塾の午前授業終了後、自習室で問題集を一人で解いていた。
自主的にやりたいわけではなく、単に授業についていくのが精一杯だったのと、自習室は空調管理もされていて、雑音もなく、家で勉強するより効率がよかった。
そんな勉強にも飽きて、僕はそろそろ帰ることにした。まだ何人もいる自習室を横目に僕は涼しい廊下を通り抜けると、エレベーターホールには、一人だけ女の子がいるのがわかった。
後ろ姿しかわからないが、茶色がかった髪で黒いキャミソールワンピースの子だった。
下りのボタンは既に押されていた。
エレベーターが到着し、扉が開く。
僕の前に立つ女の子が乗る。僕もその後を続こうとした。
その瞬間、僕はハッとなった。後ろ姿ではわからなかったが、エレベーターの中でこちらを向いたとき、その子が誰かわかった。
実夏だった。
このときまで僕は、同じ塾に通っていることを知らなかった。僕が立ち尽くしていると、
「……乗らないの?」
実夏が言った。
乗らないわけにもいかないので僕はエレベーターに乗った。ゆっくりとドアが閉まった。
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