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塾から少し歩いた駅のそばにあるドーナツショップに実夏と僕は入った。
カウンターで注文してそれぞれ買って、少し奥側の小さなテーブルの席に行き、ソファー側に実夏は座った。僕は向かい側の椅子に座る。
周りを見渡したが、友人らしき姿はなかった。
「どうしたの? キョロキョロして?」
実夏が落ち着きのない僕に対して言った。
「え? ああ、知ってる奴いないかなと思って」
「……なんで?」
「え? こんなとこ見られたら『彼女といる』とか思われるかなって」
女子と二人でいるところを学校の奴らに見られたら後で絶対にからかわれる。それが目に見えているので僕は警戒していた。
実夏は、僕の言葉に少し目を見開き、そしてすぐに呆れたような表情になった。
「そんなこと気にしてるの?」
「え……」
「小学生じゃないんだからさぁ……」
実夏はアイスティーのストローに口をつけた。よく見たら実夏の唇はオレンジ色っぽい色をして、艶々していた。リップクリーム? グロス? 知っている言葉で考えたけれど答えは出なかった。
何も言わない僕をどう思ったのか、実夏は
「……怒った?」
と言った。僕が「子供」扱いされたことに怒ったと勘違いしたらしい。
リップなのかグロスなのかと考えていたとは言えず、僕は、首を横に振った。
「別に怒ってないよ」
「ならいいけど……」
ぎこちない会話だなと我ながら思った。
小学生の頃はこんなにぎこちない会話じゃなかった。でも、それは昔のことだ。
よく冷えた店内にいるのに、僕は落ち着かなかった。
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