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「女子と二人でいることが気まずいのかぁ……」
そう言うと、実夏はソファーにもたれて天井を見上げた。
「いや、だって……」
「佑ならわかってくれることもあるかなって思ったのに」
「そう言われてもなぁ……オマエの彼氏とかみたいにオマエのことはわからない」
実夏は天井を見上げたまま目だけで僕を見た。
「彼氏……って、私が誰とつきあってるとか聞くの?」
「噂はいろいろ。実夏だけじゃない。誰がどうしてるとか、公立にだって流れてくるさ」
「公立は同じ小学校のメンバーだらけだもんね……そう」
実夏は今度は俯き、大きくため息をついた。それっきり実夏は黙ってしまった。
僕の耳には周りの会話だけが響いてくる。誰かと誰かが別れただとか、好きなアイドルのことだとか、興味もない話ばかりが。
「時間だ」
実夏がスマホを見て言った。もう15時だった。
「時間?」
「次の塾の時間。私、今日は掛け持ちなんだ」
「へぇ……」
実夏は僕をじっと見た。
「……じゃあね」
そう言うと、実夏はスマホをカバンにしまい立ち上がった。そして、そのままトレイを持って去っていった。
このとき、実夏は次の塾に向かったのだと疑うことはなかった。
実夏が塾に行っていない、と母から聞いたのは家に帰ってすぐのことだった。
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