いちばん高い場所で

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* 「佑、何か知ってる? 実夏ちゃんのこと」  母の問いかけに僕は首を横に振る。  実夏の母は2つ目の塾へ車で迎えに行った。  しかし、予定の時間を過ぎても実夏が塾から出てくることはなかった。  スマホへの連絡も繋がらず、さすがに遅いと思った実夏の母は、塾に直接尋ねたところ「今日は来ていない」と言われたとのことだった。  1つめの塾に行っていたことは確認が取れた。ただ、その後の実夏の足取りがわからない。実夏の母は、僕の母とも仲がいいので連絡が来たということらしい。 「塾で実夏は見たけど……特別何か話したわけじゃない」  一緒にドーナツショップへ行ったことは言わなかった。 「前も貴方たち二人で親に黙って行動したりとかしてたでしょう? 私はもしかしたらまた佑が絡んでるのかと思っちゃった」 「前も……って小学生のときだろ。何年前の話だよ」 「まだ三年よ」  親から見れば三年なんて短い月日なのかもしれない。 「今のオレは実夏とは、滅多に会うこともないよ」 「でも、今日は会ったんでしょ?」  思わず僕は息を呑んだ。  こういうとき、ウチの母親はなかなか鋭いと思う。ウチの父が母に嘘をつけないのは、すぐに見抜かれるからだと言う。 「いや、だからって、別に」 「実夏ちゃん家、みたいなの」  母が右の掌を頬に当てて言った。  いよいよ、という言葉が頭の中で反芻する。僕はその続きを聞かなくても、何がいよいよなのか悟った。  実夏の家の事情は知っている。  「まだ三年よ」というさっきの母の言葉が頭の中で蘇り、僕の記憶が小学校六年の頃に巻き戻っていく。あのときは――、 「ちょっと出てくる」  思いついた場所があり、僕がそう言うと、母は僕の目的地も聞かずに「よろしくね」と言った。
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