いちばん高い場所で

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*  夏とはいえ、もう辺りは真っ暗だった。  僕は自転車ではペダルを漕ぐことができない坂道までやってきて、途中で降りて自転車を押した。  こうまでして坂を登って、そこに実夏がいなかったら、この汗は何の意味があるんだろう。そんなことを思いながら、噴き出してくる汗を拭って長い坂を登り切る。    五差路の道を間違わないように気をつけて歩くと、小高い丘を成した公園があった。  公園の入り口に自転車を止める。  アスファルトの舗道に沿って、更に公園の中を登っていく。低学年の頃にカブトムシを取った茂みを横目に「ここは変わらないんだな」と独り言を呟く。  登り切った場所は、展望台からも少し離れた場所で、何のモニュメントもなく、ベンチすらない。ただの丘だ。  でも、この場所こそが、この町でいちばん標高が高い場所だ。それを教えたのがあの小六の夏だった。まだ覚えていたのか、あいつはこの丘にいた。 「実夏」  町を見下ろしていたその後ろ姿に僕は声をかけた。  ゆっくりと振り返った実夏の大きな瞳が僕を捉えた。 「佑」  実夏が僕の名を呼ぶ。 「塾をサボったって聞いた。オマエの母親経由でウチの母親から」 「母親ネットワークは怖いなぁ」  実夏は苦笑した。 「『またなんか二人で考えてない?』とか言われちゃってさ。いやマジで知らねーし、って思ったときにハッと思い出した。この場所っていうよりは三年前のこと」 「……小六のとき、佑がバスケの試合で退場して負けたときのこと?」  意地悪そうな笑みを浮かべながら実夏が言った。僕は、首を横に振る。 「小六のとき、実夏ん家がやばかったときのことだよ」  僕がそう言い返すと実夏は頷いた。  小六の夏、僕たちはそれぞれの理由で、二人で家出しようとしたことがあった。目の前で起きた出来事を受け止められず、僕たちはこの町を抜け出そうとした。
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