いちばん高い場所で

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*  小六のとき、僕はミニバスのチームに所属していた。ここで勝てば全国大会へ進める、そんな大事な試合だった。ずっと頑張ってきた仲間と小学校最後に全国の舞台へ進む、それを信じて僕は疑わなかった。  しかし、相手チームの挑発に乗って冷静さを失った僕はファウルを重ねて、退場してしまった。チームも敗れ、全国への道は経たれた。  自分のせいだと失意のまま帰り道を歩いていると、マンションの前で実夏が立っていた。目を真っ赤にしていた。 「なにしてんだ? 目ぇ真っ赤だぞ」 「佑こそ目が真っ赤だよ」  試合後に泣きじゃくっていた僕の目は充血していたのだろう。見られたくなくて目を逸らしたとき、実夏が言った。 「佑、私と家出しない?」  その言葉を聞いたとき、すべての音が止まったんじゃないかっていうぐらい驚き、僕は実夏を見返した。  真っ赤な目の実夏が薄く微笑む。 「もう嫌なんだ、全部」  実夏がスッと右手を差し出した。この手を握れば同意したことになるのだろう。  自分のせいで試合に負けたことを受け止めることができていない僕は、差し出された手を拒否することができなかった。  僕はその手を握り返した。 「私たち、一蓮托生(いちれんたくしょう)だよ」  難しい本ばかり読んでいる実夏は知っているのかもしれないが、そんな難しい言葉を僕は知らなかった。ただ、柔らかなその手を握ったとき、これから何が始まるかもわからないのに、ただただ胸が高鳴っていた。
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