8月14日

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あれ?いやちょっと待て。 根本的な話、そもそも俺はアイツと会話をする必要はあるのだろうか。海紀がアイツに会いたいってだけであれば、俺は壁越しにこんにちはすればいいだけな気もする。 あ、でも……昼間に『やりたいこと』とか言ってたような……。 坂を下り始めると交錯する思考は向かい風で吹き飛ばされ、大きくなっていく高校が一瞬目に入る度に何故か心臓が張り詰める。 平鈴香は居ない。という確信がありながら起こるこの動悸は……やはり——。 坂が終わり平坦な道になっても、もはや漕ぐ必要はなかった。もし仮に海紀が物理的な質量として加算されていれば話は別だが、一人であればここまでの惰性で十分。 極力ブレーキを使わず進むロードテクはコイツとの切磋琢磨——というか馬鹿やってただけ——により相当磨かれている。 とは言っても、下った山は『裏山』というくらいだから到達できるのは正門ではなく裏門なんだけど、今回は偶々それで良い。 裏門からはグラウンドが一望できるし、その奥には各運動部の部室がある。陸上部の部室はグラウンド側の一番右で、練習場所は裏門から近い端のエリアだから、ヤツが居るなら一目ですぐ分かる。 「うわー懐かしぃ……くもないな、案外」 予想外の反転で芸人さながらのズッコケを披露してしまう俺には目もくれず、海紀は左手をかざしてグラウンドいっぱいを見渡す。 まず一番近いハンドボールコート、奥には二階建てのプール、その右にテニスコート、真正面校舎に進む石廊下を挟んで左側にサッカー部のエリア、その手前がラグビー部、その奥に広大な野球部のエリアがあって、まるで追いやられている形に見える細長のエリアが陸上部だ。 俺も一年前までは、ここに居た。今となっては部員の数名しか知らない事実だけど。
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