プロローグ 〜8月13日〜

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今日は八月十三日、アイツが死んで最初のお盆。 俺は別に仏教徒でも何でもないからその辺の行事には疎いわけだけど、クリスマスやらお正月と同様に、日本人なら行う風習みたいなものらしい。 まあ、アイツがあの世で喜んでるなら何でも良い。 叔母さんから先にどうぞと線香を受け取り、俺は言われるがままその線香をあげて墓石の前で手を合わせた。 「こういう時って、何を祈ればいいの?」 「ふふっ。今思ってることをそのまま伝えたらいいのよ」 「ふーん……そっか」 思っていること……そんな抽象的に言われても、コイツに対して抱いてる感情なんてこの数秒間で伝えきれるわけがない。 ——海紀、俺初めて知ったよ。線香の火は息じゃなくて、振って消すらしいわ。 いや、なに言ってんだ俺。……けど、逆の立場なら分かってくれるだろ?しょうもないことしか言えない程度にはまだ俺の気持ちは整理できてないんだよ。 一歩後ろに下がって、空を見上げる。 涙はこれっぽっちも出ない。それは悲しくないからじゃなくて、まだ現実を受け入れられてないから。 この世でコイツにもう二度と会えない実感がまだないから。 少しして、まとわりつく線香の匂いともう一つ別の匂いがしてくることに気づき、目線を戻す。
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