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芯の通ったその声は、純粋で、真っ直ぐで、その表情もまた、真実だった。
「私は、あの時反射的に動けた私を誇りに思う。もし目の前であの子を見殺しにしていたら……いや、仮に死んでいなくても、それこそ私は一生後悔したと思う。
私は他人の危機より自分の命が惜しくて行動できない人間なんだって。
命を張ることが『善』かと言われたら話は別だけど、私は昔からそういう人間でありたいと思ってた。
だから、まあ私が死んじゃったのは残念だけど、私の本性を身をもって確かめることができて良かった。私は助けたいから助けただけで、結果偶々死んだのが私。
そこに罪も罰もない。あるとすれば……義務」
海紀が、今度は女性に正対する。
「お姉さんの意思に関係なく、私はあの子にバトンを繋ぎました。もう、あの子の命はあの子だけのものじゃない。
だから、あの子が立派な大人になるまで、大事に、育ててください。
大丈夫!助けられた子はきっと、他人を助ける大人になる。あの子が他人を助ける度に、私の命は意味を持つし、お姉さんの気持ちは軽くなる。お姉さんが罪の意識を背負う必要は決してない。
けど、絶対に、私が後悔するような生き方を子供にはさせないで」
「海紀……」
海紀は振り返り、ニカっと笑って「海斗の言葉で、伝えて」と言い残し、また子供の元に戻っていった。
陽気に離れていくアイツの後ろ姿が、これほど逞しく見えたことはない。これじゃまるで、死んだアイツの方がよっぽど成長している。
生きている俺なんかより、ずっと。
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