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言葉は決して多くない。それでも、今の内容をそのまま伝えるなんて中々無茶な要望だ。アイツの言葉は、アイツの口から聞いてこそ意味がある。
だけど、何故だか俺は、ある種の冷静さを取り戻していた。
「あの」
死んでも尚、他人を想うアイツの意志は、俺だけが持っていちゃいけない。
十数年分の海紀を回想しながら、そして、さっきの笑顔を脳裏で感じながら、言葉を選ぶ。
「海紀は……俺が知ってる海紀は、仮に死ぬと分かっていても人を助けるようなお節介者です。今もきっと、後悔はしてないでしょう。
ましてや、お姉さんを恨んでることもない。むしろ、当事者じゃない俺の方がよっぽど恨んでたと思う。今までは……」
「…………」
「でも、もし海紀が後悔をしているとすれば、今のこういう俺たちに対してだと思うんです。海紀は助けたいから助けた、ただそれだけ。お姉さんが罪を背負う必要はない。
きっと、今のお姉さんを知ったら、それこそアイツは後悔してしまう。そんなの、報われないですよ、アイツが。
海紀は、残された俺たちのことまで見越して人助けしてはしていないんです。だからこそ、俺たちが下を向くわけにはいかない。
俺にできることは、アイツと同じ場所に行くその日まで、アイツを想って生きること。
お姉さんにできることは、あの子を、大切に育ててあげることです。アイツはきっと、あの子を今も見守ってるはずですから」
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