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「……このお盆の間だけでも、たくさん、線香焚いてやってください。多分……いや絶対、アイツ喜ぶと思います」
頭に「?」を浮かべていた彼女から、一転して今日一番の笑顔が窺えた。
それは、顔を崩して微笑んだという意味ではなく、表情の裏に滲んだ陰りが俺の目からは見えなかったという意味で。言わずもがな、隣の女子は文字通りの笑顔を見せているわけだけど。
女性は振り返り「分った」と言って自販機の方へ向かい、何やら黄色い液体のペットボトルのボタンを押す。
今の「分かった」とは?と若干戸惑う俺に彼女は「じゃあ、CCレモンは代わりに飲んであげて」と言うもんだからこれは一本取られた。
そういえば、喉カラッカラだったんだ。
ヌルくなるという台詞が伏線だったかのように、受け取ったそれを俺は遠慮せずに蓋を開けて一気に胃へ流し込んだ。喉を通る微炭酸の刺激が、ここまで心地良く爽快に感じたことはない。
海紀が横に居てこれはちょっと不謹慎かもしれないけど、今をもって『生き返った』という表現以外に妥当なものはないだろう。
ただ、飲んだ後盛大にその炭酸を吐き出すのは教育上マズいと気付いた俺は、悟られないように大気に放出するのに若干の苦労を要した。なんのつもりか超真顔で——コイツの真顔は実質変顔——ガン見してくるのは流石に反則だろ海紀。
その後、何だかんだ十分程最後に話をして、俺らは親子二人の背中を見送った。
見送る直前、蒼くんに言った「立派な大人になるんだぞ」は改めて考えると俺が言える立場でもない気がするものの、大きく首を縦に振った後のあの真っ直ぐな眼を見て、言って良かったと思った。
「私のCCレモン、なんで飲み干すわけ?」
「いや一言目それかよ」
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