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ちッ、憎たらしい奴め。と結局何故か俺が文句を言われる始末。まあ長年これを日常にしてしまったコチラにも非はあるので、今更更生させる気もない。
「ま、あとは大丈夫よ!不確定要素は鈴香だけだから」
すっかり忘れていたその名前。行きの会話を思い出し、途端坂を踏み込む脚に数倍のGがかかる。
まるでサンダルが鉄製に変わったような……いやもっと、下半身が泥水に浸かっているような、それ程の錯覚。
俺、どんだけ奴に苦手意識持ってるんだ——。
「ちょっとー、自転車止まりましたよー」
滴る汗を左腕で薙ぎ払いその反作用で後ろを振り返ると、いつの間にか横乗りになった海紀が脚をぶらぶらさせている。その脚の軽やかさと言ったらそのまま空へ飛んで行ってしまいそうなほどに軽快で、心身共に今最も俺と対極に居る人間で間違いない。
いや待て、厳密にいうとコイツは今人間ではないから、実は本当に飛べたりするのでは?あの世が空の彼方にあるのなら辻褄は合う。
「お前、空飛べる?」
「なに馬鹿言ってんの?」
……どうやら違うらしい。海紀のゼロ秒返し+真顔ガン見のこのコンボは大抵『は?』が頭に浮かんでいる状態。
つまり何も隠してないし、あの世は空にはないらしい。
まあ、訊いといて何だけど、仮にコイツが去り際にパタパタと飛んで行ったら俺笑わずに見送れる自信がない。
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