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おおよそ三十分かけて遂に裏山の頂上に到達した頃には、流石の夏空も青から赤へと変化していた。
緑に覆われた坂道ではその空を堪能する暇もなく、光合成の大合唱により作られた大量の酸素をできるだけ多く取り込むことに注力していたけど、開けたこの空間で吸う空気にはまた違った爽快感がある。
「やっぱりこっち側は田舎だねー!田んぼと山ばっかり」
「よそ者からしたらどっちもくそ田舎だっての」
「それを言い出したら元も子もないでしょ?」
「いいからはよ荷台に乗れ。腹減って倒れそうだ」
炭酸飲料のお陰で少し膨れた胃も、ここまで来るとしっかり吸収されてすっかり空っぽだ。地味に今日一食しか食ってない——しかも軽めの朝食——のに気付いてから余計腹の音が鳴る。
線香でエネルギーチャージした海紀には関係ないんだろうが。
「あら、そーなの?でも悪いけどこのまま学校行くよ」
「……は?何しに?」
「鈴香に会いに」
競輪選手に負けず劣らずの構えは何だったのか、俺は一旦冷静になるため跨った自転車から降りて丁寧にスタンドを立てる。
あれ、歩いて行くの?と言う海紀の小ボケは冷静にスルー。
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