13人が本棚に入れています
本棚に追加
見たところ、やっぱり練習しているのは野球部くらいなもんで、他の部活が休みなのを良いことにグラウンド全体を完全占領している。陸上部が幅跳び用として使っている砂場でさえタイヤ引きの餌食になっているし、こりゃ部室横の筋トレ室——通称トレ室——も野郎共で溢れているだろう。
そしてこうなると、奴等から見たら『独り』でいる俺の存在はむしろ奇妙でしかない。
「ちょッ、なにアイツら!?人ん家の砂場荒らしやがって……均すの大変なの分かってんの!?おい海斗文句言ってこい!」
「無茶言うな俺部外者だぞ?」
おいコラッ、呪うぞ!と叫び散らかす海紀の台詞は半分冗談に聞こえないわけだけど、コイツが怒るのも正直理解できる。
砂場を均す作業の苦行っぷりときたら、中々なものだ。スコップに体重を乗せて掘っては、てこの原理でまた体重を乗せて返し、これを永遠に繰り返す。背筋のトレーニングどころか下手すると腰を痛めるこの作業の上でようやく使い物になる砂場を、なんの苦労もなく使われるのは良い気はしない。
「まったく……鈴香が見たらなんて言うか」
「その当人居ねえじゃん」
「ちょっと海斗さあ!なんか急にハクジョーじゃない?さっきから」
「お前、今俺が『独り』ってこと忘れてねえか?」
「あ……そうだった」
まるで腹話術を披露しているみたいになってる俺の立場をようやく理解したようで、海紀は野球部の蛮行を横目に石廊下を進んでいく。
逆に俺はタイヤ引きの新米連中から横目の視線を感じるわけだが、まあ二年じゃなければ別に良い。夏の雲のように純白なそのユニフォームをせいぜい汚さないように頑張れよと、やや見下し気味の台詞を内心で吐きながら海紀の背中を追う。
最初のコメントを投稿しよう!