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冷気を帯びたその声に、俺は戦慄した。
表現としては少しオーバーかもしれないけど、今これ以上に適切な言葉が出てこない。背後から聞こえた瞬間、腰から頭へ抜ける寒気と波立つ鳥肌が背中を襲った。
完全なる油断。人気のなさが意識を無意識に変えてしまっていた。しかも、この声——
「鈴香ぁーッ!」
俺が振り返る前に、その答え合わせをするかのように海紀が叫んだ。それと同時に、しゃがんでいたはずの海紀が姿を消す。
一体その質量の無い体のどこに秘めているのか、俺には到底真似できない脚力で跳んだらしい。俺の胴体を突き抜けて。
五感上は全く違和感がないものの、『現実』は中々に残酷だ。何もない砂の地面を見てぶつぶつ言ってるところを今一番見られたくないヤツに見られた、という構図。
とりあえず——今は振り返るしかない。
ゼンマイ仕掛けのおもちゃのように体を軋ませながら半回転すると、一縷の望みも虚しくそこに立っていたのはやはり制服姿の平鈴香だった。
海紀が変に取り憑いている——エアーハグ?——せいで若干隠れているけど、残念ながら本人で間違いない。
正直なところ、この時点で俺は今一度この現実が『夢』の類ではないかと疑った。普通に考えて、こんな都合の良い展開が一日に二度もあるわけがない。しかもその両方とも、ギリギリの滑り込み。あそこのカフェの可愛い店員今日は居るかな?で会う確率とは訳が違う。
違和感のないように、左手でほっぺを摘んでみる。……大変残念ながら、普通に痛い。
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