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お家デート【成海side】
今日は晴彦くんとお家デートの日。昨日は緊張しすぎて眠れなかった。重い身体をベッドから引き剥がして着替えた。
青のチェック柄のシャツにデニムのズボン。髪を整えて顔を洗って朝食を食べる。
のんびりボーッとしながらパンを齧っていると待ち合わせ時間まで後10分。
パンを牛乳で流し込んで、顔を洗って歯を磨くと駅まで走り出した。
晴彦くんの家は近いみたいで駅一駅だけだった。ソワソワしながら駅の壁に凭れ掛かって晴彦くんを待った。
彼は待ち合わせ時間丁度に来た。晴彦くんを見るとドクンと心臓が跳ねた。
「成海、待ったか?」
「いいや、そんなことはないさ。」
僕はいつも通りを心がけて、ふっ、と笑いながら髪を払った。
「君の家は近くかい?」
「あぁ。すぐそこ。」
ピッと指差したのは少しボロいマンション。
「っふ、僕には及ばないがいいマンションだねっ。」
「嫌味にしか聞こえねー。」
「嫌味じゃないさ!」
「はいはい。」
めんどくさそうに返事をすると、マンションの階段を登って、奥から二番目の部屋の鍵を開けた。
「どーぞ。」
「お邪魔します。」
靴を脱いで揃える。
「洗面台はあっちな。」
リビングに入ってすぐ左手の扉を指した。
僕は洗面所へ向かって、鏡の前に立つとため息をついた。
「どうしよう…晴彦くんの家…すごく緊張する…。」
心臓がバクバクしすぎて潰れちゃうかも。
またため息をつきながら手を洗って、心を落ち着かせてからリビングに出た。
「遅かったな。」
「ま、まぁね。僕は髪を整えなきゃいけなかったからね!」
「…そ。お家デートっつっても何するんだ?」
あ、か、考えてなかった。晴彦くんの家に行けるのが嬉しくてそればっかりだった!
「映画とかどうかな!優雅に紅茶を飲みながらね!」
「いいな。でも紅茶なんてねーわ。コーヒーでもいいか?」
コーヒー?僕コーヒーなんて飲めない。どうしよう…晴彦くんにはカッコよく見られたい。
バクバクと心臓が暴れ回るのを感じながらコクンと頷いた。
「あぁ。もちろんさ!ブラックで頼むよ!」
ブラックなんて余計なこと言っちゃった。これはマズイ。かなりマズイ。
コポコポとコーヒーを注ぐ音と共に香ばしい匂いが僕の鼻をくすぐった。
晴彦くんがカップを二つ持って来た。
「なんでたってんの?そこのソファ座れよ。」
晴彦くんが顎で指すと、僕は座ってコーヒーを受け取った。
ブラックコーヒーの水面をジッと見つめる。
お家デートってこんなはずじゃなかった。もっと甘々で、たくさんイチャイチャして夜は“そういうこと”をする予定だったのに…。
僕ってダメダメだなぁ…。
そんな風に思いながら顔をあげて、コーヒーを啜りながらテレビのチャンネルを変える晴彦くんをジッと見つめた。
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