おれはコイに恋をする

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 おれは深呼吸を二度してから、数メートル離れた場所に居る奏を睨む。 「そうだよな、山奥の土地にコレクション部屋を造れば周囲に怪しまれない。警察も“裏”には手を出しにくい。お前にしては趣味のために様々な方法を吟味したんだな。すげえや」 「っは! 仲直りでもする気になったのか。築夜は俺の好きを理解してくれ―――」 「いや? おれはてっきり、お前が好きなのは魚類の鯉だと勘違いしてたから。せっかくこれ買ってきたのになあ」  おれは手に提げたビニール袋から鯉や金魚用の餌を取り出す。そして素早い動きで奏に近付き、コイを作るための道具であろう。床に落ちていた血塗れのナイフを拾い上げる。それを啞然とする奏の胸元に思い切り突き立てた。  奏が膝から崩れ落ちる。 「えっ……あ……?」 「いいな、コイって。おれも気に入った。ここに居る奴等全員、今日からおれのものだ。という訳でお前、お腹空いていないか? 栄養満点の餌あげるよ」  おれは鯉の餌を右手で取れるだけ鷲掴みにして、それを血を吐く奏の口に突っ込む。 「がはっ……!」 「んー、どうした? 生きの良い奴ならもっと食えるだろ?」 「んがっ、むっ、んが!」  餌が散る、新たな餌を手に取る、無理矢理食わせる。散々暴れ、藻掻いた後に奏はコイになった。ありがとうな、奏。素敵な道楽に出会わせてくれて。 「これからもよろしくな、奏。……勿論おれが殺した奴の死体、“コイ”と人間(おれ)として、だけど」
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