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3話 予期せぬ邂逅
草を踏み、砂利道を踏みしだく足音が戸口に近づいてくる。
一歩、二歩…三歩。
そして遂に引き戸が横に開いてスニーカーを履いた足が現れた瞬間、思わず歯噛みを漏らしそうになった私は慌てて深呼吸をした。
……危ない……。
今はまだ、侵入者にこちらの存在を気取らせてはならない。
「やれやれ、今日はやけに調子が悪いな…」
男はこちらに気付いた素振りもなく、短い溜息をしながら被っていたフードを脱いだ。
「!」
フードの下から表れた鮮やかな白髪に、私は思わず梁の上で目瞬きをした。
(ウサギ、みたいだ)
雪のような髪色をした男は、ホームレスにしては随分とこなれた身形で、顔立ちもそれなりに整っている。
…おまけに、随分と長身だ。
モデルでもここまでの高身長はいないだろうに。
驚いたことに、最近の浮浪者はジーンズを穿きこなすらしい。
顔立ちはまだ若いが、白い髪色のせいで曖昧な印象だ。
この男は、本当にホームレスなのだろうか?
それ以外にこんな廃屋にいる理由はないのだけれど、なにか釈然としない。
まあ今となっては、目の前の敵(コイツ)が年寄りだろうが若者だろうがホームレスだろうが、排除対象である事実に変わりはない。
とりあえず、此処から立ち退いてもらおうか。
この家は、私の思い出の場所なのだから、もし抵抗するようであれば、躊躇なく殺す!
憐れな拠る辺のない自分の唯一の拠り所を奪うというのなら、容赦はしない。
静かな怒りに、全身の血が沸騰する。
「ガウウゥッ!!」
(出ていけ。命が惜しくば一秒でも早く、ここから出ていけ!)
「なっ、なん…うわあああ!?」
飛びかかった時の衝撃波で箪笥が巻き添えになり、雪のように埃が舞う。
意外にすばしこく逃げるせいで狙いは外したが、腕に噛みついてやる。
強かに数発殴られたが、離してやるものか。
「お前……まさかオオカミの……なのか?」
だから何だという意図を込めて睨み返せば、唐突に背負い投げされる形で腕から引き剥がされた。
強く噛んだ筈なのに、歯向かいようのない剛力だった。
「グウウ、グウゥゥゥ…ッ」
伸長があるだけで、筋力の乏しい人間にここまでの力が出せるとはとても思えない。
「いや。ただのオオカミの訳はないな…アイツ等は絶滅して随分たつ。お前、何者だ?」
強い力で投げ出されたが間隔をおいて着地した私を、男は警戒に満ちた眼差しで睨み返してきた。
「……そんなこと、私が知りたいよ」
「はは…」
その答えを待ち構えていたかのように、男は僅かに退くと口角をあげて笑った。
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