合宿しよう

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合宿しよう

 カレンダーが七月の日付に変わってから二週間が経った。  もうすぐ夏休みだ。  運動部は夏の大会に向けて本格的な追い込みに入っているそう。練習嫌いのテニス部の青木くんが面倒くさそうにラケットの入ったバッグを担ぎながらそんなことを言っていたのを思い出す。  私は文化部で、しかも化学部なんていうちょっとマニアックな部活だから、もちろん大会なんかない。  部員も私と水上樹部長の二人だけっていう超小規模でやっているし。  本当はあと三人幽霊部員がいるっていう噂なんだけど、私はその人たちを見たことがない。多分、部として成立させるために名前だけ借りた人たちなんだろう。  活動は、東校舎三階の理科実験教室を借りて、水上部長が考えついたおかしなものを作れるかどうか実験するのが主なものになる。  去年の夏はくっついたら絶対に離れない接着剤を作ってえらい目に遭った。なんと私と部長の手がくっついて、夜の校舎に閉じ込められたのだ。  秋には部長が夕方のマジックアワーの可視光線にだけ反応して文字が読めるペンを発明し、無駄に山登りをさせられた。部長は高い山のてっぺんで充分な光を浴びさせたかったらしい。本当はどこでも実験できたと思うけど。  また、クリスマス前には恋を叶えるリップという口コミで人気の口紅の噂を聞きつけた部長が自分でも作ってみたいと言い出して、私を実験台にしたこともあった。  どれも成功とは言い難かったけど、面白かった。  それに何より、部長の水上先輩は私好みの超イケメンだから、毎日会えるだけで幸せだった。  だけど、今年は部長も三年の夏だから受験のために部活動もあまりできなくなるのかな。  部活っていう口実がなければ、部長とは学年も違うし、会う機会がなくなってしまう。    夏休みなんてなくなればいいのに。  このまま部長と会えなくなるなんて、悲しすぎて生きる気力も失っちゃう。  そう思っていたある日の放課後──。
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