0:08 セミダブル

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 泉くんが作る朝ご飯には、必ずヨーグルトが付いてくる。  お世話になっている身だし、炊事には苦労のない毎日を送らせてもらっているから、絶対に言わない。言わないけれど、このヨーグルトが実は少し苦手だ。  しかも今日は、ブルーベリーが添えてある。たまに押し寄せる苦手のコンボを、私は素早く掻き込んだ。 「今日は?帰り、いつもと同じか?」  カウンターの向こうで、コーヒーを淹れながらこちらを窺う泉くんは、今日もお似合いのエプロンを纏う。  私が思考する間に、彼はモーニングを求めにやってきた常連を通して、注文を持って帰って来た。ランチやティータイムでは女性客が圧倒的だけど、自家製オムレツがセットになったモーニングはビジネスマンを虜にしているらしい。 「うん、同じ。明後日は少し遅くなるかもだけど」  コーヒーを嗜む音を背中で聴きながら、クロワッサンを頬張る。二階にはダイニングがないので、朝夕ともに食事は cafe komachi のカウンターで済ませることが多いけど、私は時間がゆったりと流れる朝の komachi がとても好きだ。  難を挙げるとすれば、歯磨きのためにもう一度二階へ上がらなければいけないところ。あと、必ずヨーグルトが付いてくることくらいだ。 「明後日?」  泉くんは首を傾げながら、komachiのオリジナルタオルで手を拭う。まだカフェをオープンし始めの頃、散々反対をしたのにグッズ制作をして、結局売れ残ってしまったタオルだ。 「うん。先輩の送別会なの。出向解除だから、退職とはまた違うんだけど」 「明後日……木曜な」
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