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18.彼が飴をくれた理由
あの頃の記憶が鮮明に思い浮かんだ途端、ひとり言のように延々と語っていた。
飴に込めた長年の想い。
まさか大切な思い出話を他人に語ると思わなかった。
すると、黙って話を聞き終えた彼は数分ぶりに口を開いた。
「あんたはそいつのどんなところが好きだったの?」
「透き通った歌声かな。半分憧れで半分恋。彼の歌が魅力的だから、レッスンの時に順番が周ってくると異様に胸がドキドキして……」
「魅力的な歌声……ね」
「大雪が降ったら彼に会えるかな、なーんて未だに期待しちゃったりして。再会した時にこの飴を見せれば、少しは記憶の頼りになるかなと思って」
「どうしてそいつはあんただけに飴をくれたんだろうな」
「うーん、他の子と比べて歌唱力が圧倒的に劣っていたからかな……」
セイくんが言う通り、彼が私だけに飴を渡す理由を考えた事がなかった。
普段から星型の飴を持ち歩いていた事も、いま考えてみると謎に思う。
「また会えるといいな」
「でも、あれからもう六年経ったし、皆川くんはもう約束を忘れてるかも」
「いや、案外しっかり覚えてるかもよ」
「えっ……」
驚いた声で彼がいるカーテンの方に目を向けて返事をすると……。
ガラッ……
「セイ、もう時間だよ」
保健室の扉が開いて、暫く席を外していた養護教諭は扉方向から彼の名を呼んだ。
「時間が来たからもう戻らないと」
「ん。バイバイ、セイくん」
ベッドから立ち上がる音とカーテンの開く音が聞こえた後、二つの靴音は徐々に扉方向へと遠退いて行った。
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