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21.For you
「失礼しまーす。先生、今日も貧血気味で……」
保健室に到着して中に入ると、今日もいつもと同じく部屋の左奥側のベッドのカーテンが閉まっていた。
養護教諭は私の到着にまたかと言ったような曇った表情。
その眼差しが保健室の常連生徒と位置づけている。
受け取った記録表には、前回同様今日も星マークが書かれていた。
記録表には、いつしか彼の★マークと私の名前が連なり始めている。
養護教諭が席を外した隙をみて、すかさずカーテン越しの彼に話しかけた。
「ねぇ、セイくん。起きてる?」
光が差し込み風で靡いているカーテン側に声をかけても、彼からの返事は届かない。
静か……。
セイくん、具合悪くて寝てるのかな。
今日は声が聞きたかったのに。
少し残念に思いながらも、無意識のうちにいつもの思い出の歌を口ずさんでいた。
「絡み合った指先と〜♪ 二人見つめ合った笑顔と〜♪ 思い出は色褪せる事なく 今も胸に刻まれてる〜♪」
無意識とはいえ、寝ている彼を気遣ってカーテンから漏れないくらい小さな声で歌う。
一人きりの時間は勿論のこと、こうやって自然と口から零れてしまうくらいこの歌を歌う事がクセになっている。
ところが、ワンフレーズを歌い終わりそうだった、次の瞬間。
「……俺、その歌知ってる」
すっかり寝ていると思い込んでいた彼から、カーテン越しに衝撃的なひと言が届いた。
今さっきまで寝息すら聞こえて来なかったのに……。
「えっ……」
「それ、《For you》って曲だろ」
セイはそう言ってゆっくりベッドから身体を起こす。
風でふわりと揺れ靡かせているカーテンの隙間から床に揃えられている紗南の上履きが見え隠れしているのが、ベッドに腰を立てたセイの視界に飛び込む。
先日、紗南の存在が明らかとなったばかりのセイ。
六年ぶりの懐かしい曲に感極まると、唇を深く噛み締めた。
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