27.内緒の時間

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27.内緒の時間

保健室のベッドが埋まっていて利用を断わられる日もある。 「具合悪いんだったら早退する? あいにくベッドは二つしかなくてね」 「一つはセイくんが使ってるんですか?」 「彼は仕事が忙しくて寝る場所がここしかないから、そっとしてあげてくれる? もう単位が落とせなくてね。こうでもしてあげないと午後の補修授業に出席出来ないの」 セイくんは保健室のベッドを他生徒に譲れないくらい、学校から大切にされている。 時に悲しいニュースもある。 彼はいつも保健室にいるわけではない。 当たり前だけど、授業を受けたり仕事が入ってる日は保健室にいない。 だから、彼との会話は限られた時間内で交わす。 「何処に行っても誰かしらに追われるから、学校が一番楽。外を歩く度に他人に写真を撮られるし、有る事無い事書かれてSNSで飛ばされるし」 「芸能人って大変なんだね」 「だからいつも安全地帯にいるんだ」 「学校はセキュリティが厳しいから安全だもんね」 「ねぇ、あの歌が聴きたいからまた歌って」 「うん、いいよ」 「でも先に飴食べたい」 「じゃあ、またカーテンの下から手を伸ばして」 彼に会えた時は胸がときめく時間。 最近は養護教諭が室内にいる時でも、小声でやりとりしてカーテンの下から飴を渡す。 ほんのり温かい指先が触れる瞬間は、私にとって幸せな時間。 彼と会えた時間は、皆川くんから飴を貰っていたあの時のように、一つ一つ思い出として刻まれていく。 隣にいると思うだけでドキドキするから、ひょっとしたら彼の声に惚れてるのかもしれない。 顔を見たら残念かもよって菜乃花に意地悪を言われたりするけど、顔を知らないからこそ興味が湧いてしまうのかもしれない。
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