カーテン越しの君

28.すれ違った彼

12月中旬のある日。
菜乃花が教室付近の廊下で、先程まで授業を行っていた視聴覚室に忘れ物をしたという事に気付いて、付き添いで一緒に視聴覚室へ戻った。

机の上に置き忘れていた筆箱を手に取って人影のない視聴覚室を後にした。

次の授業の開始時刻まで残り3分。
ここから時間とのにらめっこが始まった。

すると、次の授業が目前だったせいか、滅多にお目にかかれない西校舎の芸能科の生徒達がこちらへと向かってきた。
私も菜乃花も、華やかなオーラについ目線が吸い込まれていく。

「ハルくーん、ハルくーん、ハル……モゴモゴ……」
「やめてよ。本人がいるかどうかもわからないのに大声出したら恥ずかしいでしょ」

菜乃花が急に大きな声を出して芸能科の生徒に大きく手を振るから、隣から両手で口元を塞いだ。
煌めく芸能科の生徒に気を取られているミーハー菜乃花の興奮度はMAX。
まるで暴れ馬のように……。

その場に足を止めていると、ベージュのブレザーを着ている生徒達が談笑しながら目の前を通っていく。
それをなぞるように目で追って、この中にいるかどうか分からないハルくんの姿を必死に探している。

しかし、次の授業の開始時刻まで残り2分を切ったので、ポーッと身惚れている菜乃花の腕を引っ張った。

「芸能科の生徒を眺めてないで早く行こ」

「ねねっ！ あとちょっとだけ待って。一生に一度きりのチャンスを逃したくないわ」

「何言ってるの。ダメだって。次の授業に間に合わなくなっちゃう」

教室までは結構距離がある。
筆箱を取りに行っただけでもギリギリの時間なのに、こんなところで足止めを食らってる場合じゃない。

手元の腕時計と菜乃花の顔を目で往復して普通科の校舎の方へ菜乃花を引っ張り歩いていると、前方から男子の集団がやって来た。

「セイ、延期になったジャケ撮り日決まったの？」

「んー。来年初旬になった」

たったいますれ違ったばかりの集団の中から、セイくんの名を呼ぶ声と、聞き慣れている声の会話が耳に届いた。

その瞬間、トクンと胸の鼓動を打った。