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31.彼がいない保健室
今日もセイくんは保健室に来ていない。
ベッドの隅々まで見渡せるくらい全開になっているカーテンと。
丁寧に敷かれている布団と。
物静かな場の雰囲気。
最近、全然会えていない。
セイくんに会える頼みの綱は、この保健室でしかないのに。
だから、カーテンが開かれていると、この場所にいる無意味さを感じる。
本当は授業をサボってまで会いにくるなんてどうかしてる。
頭ではわかっていても、恋する衝動は抑えられない。
「先生、セイくんは最近学校に来てますか?」
「福嶋さん、それはプライバシーだから」
「最近、奥のベッドのカーテンが開いてるだけで悲しくて。保健室イコールセイくんだったから。あはっ……、セイくんの顔すら知らないのに悲しくなるなんておかしいですよね」
「えっ……。福嶋さんは、セイの顔を知らない?」
紗南は無言でコクンと頷き哀愁漂う瞳に涙を滲ませた。
一方の養護教諭は、友人関係にあると思っていた二人の食い違う言い分に困惑の表情を浮かべる。
「仕方ないわね……。本当は内緒だけど、特別に教えてあげる。セイはいま海外に行ってるよ」
「海外……、ですか」
セイくんは保健室にいないどころか、いま日本にいない。
空虚感に襲われたと同時に語尾が消失していく。
つい先日まで身近にいたのに、今は手が届かないくらい遠く感じる。
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