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義元は逃げることもできただろうに、決して逃げることなく、まっすぐこちらを見ていた。
「織田のうつけ殿か」
「そういうお前は、海道一の弓取り・今川義元で間違いないか?」
打ち合う前に名を確認する。大名として社会人として当然のこと。
「ああ、取り立てて弓がうまいわけではないが」
「聞いてたのか!?」
評定での話をこっそり聞かれていたのかとびっくりする。
無論、そんなわけがない。
「その首、もらいうける!」
信長は馬の腹を蹴り、徒歩の義元に向かって前進する。
「どの首とな!」
義元は刀を地面に突き立てると、信長の突き出した槍を両手で掴んだ。
「何っ!?」
そして槍の穂先を地面に突き刺す。
すると信長はテコの原理で槍の反動により、馬から投げ出されてしまう。
「ぐはっ!?」
信長は無様に水たまりに転落し、親から引き継いだ自慢の鎧が泥まみれだ。
そして、ぬかるみと鎧の重さですぐに立ち上がれない。
なんとか立ち上がって振り返ったときには、義元が刀を振り上げていた。
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